狼陛下と仮初めの王妃
白い制服に白いマントを着けた姿はとても立派で、道行く若い娘たちが足を止め、頬を染めてうっとりと眺めている。
白い騎士たちの中に一人だけ、黒衣の服を纏った騎士がいる。
一人だけ服装が違うとは、騎士団長だろうか。
立派な騎士たちをまとめる人ならば、とても素敵に違いない。
騎士団なんて滅多に見る機会がなく、その団長となれば尚更お目にかかれない。
是非ともお姿を拝見したいと思い、目を凝らしてみる。
だが、どんなに首を伸ばしても、白い騎士たちに囲まれており、ちらっとしか見えない。
「残念。でも少しだけ、綺麗な銀の髪が見えたわ」
コレットも普通の若い娘らしく凛々しく逞しい人たちを見てときめきつつ、人込みを避けながら慎重に広場を通り抜けた。
すると、一気に道行く人が少なくなる。
これで人にぶつからずに済むとホッとしていると、荷車の方からガツッ!と変な音が聞こえてきた。
ほぼ同時に、コレットの左脇をすり抜けて、足早に歩いていく若者の姿が見えた。
茶色いシャツにベージュ色のズボン。
その腕にどこかで見たような色のカメが抱えられていて、それは、とても牧場のものに似ている……。
「え、まさか!」
コレットが慌てて荷車を確認すると、十個あるはずのカメが九つしかない!
「ど、ど、ど、ど、泥棒ーっ!!!」
思いっきり腹の底から叫ぶと、石畳の道に大きく木霊した。
「ここに止まっていなさいっ!」
馬に言い残して手綱を放り、コレットは泥棒を猛然と追いかける。
お城に納入する大事なミルクだ、絶対逃してなるものか!その一心でわき目もふらずに泥棒めがけて走った。