狼陛下と仮初めの王妃
声を耳にした瞬間に、ビシッと姿勢を正したコレットとリンダをよそに、口髭の紳士ミネルヴァは陛下に対して優雅に礼を取る。
「これは陛下。ここまでお出ましになるとは、珍しいですな。それに、ナアグル殿も一緒でございますか」
ミネルヴァは笑顔を作りながらも瞳は鋭く、陛下の隣にいるアーシュレイを見た。
陛下はミネルヴァのねっとりした視線から守るように、コレットを背に隠した。
おかげでコレットからは陛下の広い背中しか見えなくなり、アーシュレイを含めた三人がどんな表情をしているのか分からなくなった。
それに、どうして陛下がここに来たのだろうと、不思議に思う。
リンダはリンダで、持っていた花をアーシュレイに奪われてしまい、訳が分からないといった表情で、空っぽになった手のひらと陛下たちの背中を交互に見ていた。
「これは、どういうことだ」
陛下の怒りを含んだ平坦な声が、ミネルヴァに向けられている。
普通の人ならば震えあがってひれ伏すもので、当然、背後にいるコレットたちも震え上がった。
「私はただ、陛下の妃となるお方が、浅はかでないことを祈ったまでです。私の勧めにのってサーラを食そうとすれば、当然お止めいたしました。全部、陛下のためを考えてしたことでございます」
それでも、ミネルヴァは落ち着いた声で受け答えており、相当の権力がある者だとコレットにも分かった。