狼陛下と仮初めの王妃
「それは、ミネルヴァには分が過ぎることだろう。今後一切、私の許可なく彼女に関わることは許さん」
「はい。承知いたしました」
「それから、この花は返す。ミネルヴァがせっかく手折ったのだろう。食せ」
「は……では、後程に食べましょう……失礼いたします」
会話を聞いていても、コレットには何がどうなっているのか、さっぱり分からない。
ただ、落ち着いていたはずのミネルヴァの声が、後半は、震えた小さな声になっていったのは聞き取れている。
ミネルヴァの足音が遠ざかっていくと、陛下は振り向き、不思議そうな表情をしているコレットをじっと見つめた。
そして、日の光を浴びて艶めくブロンドの髪を、そっと指に絡める。
コレットを見下ろす紫の瞳はいつもと変わらぬ強い光があるが、ミネルヴァに向けていたような怒りではなく、ホッと安堵したようなぬくもりがある。
「君は、どうしてサーラを食べなかった?」
「あ……色の濃い植物には、毒があると、ニックに教えられていますので……迷ってしまって……」
長い指で髪を触られているせいでドキドキしながらもコレットが答えると、陛下の隣にいるアーシュレイがニッと笑った。
「その判断は、正解です。サーラは火を通せばいいのですが、生で食べると腹痛を起こします。毒は弱く命に別状はありませんが、二、三日は寝込みます。今食べていたら、おそらく婚姻の儀式は延期となったでしょう」
「まあ!そんな恐ろしいことが……」
リンダはそう言ったきり絶句し、コレットは心底食べなくてよかったと思うと、体が震えた。