狼陛下と仮初めの王妃
アーシュレイの厳しくてみっちりなダンス教育の中、コレットにとっては束の間の休息になる三時のお茶の時間。
リンダは小さなテーブルの上にレース編みのマットをぴらっと広げた。
花柄のティーセットによく合うようにと、リンダが用意したもの。
テーブルと椅子以外何もない殺風景な教室でも、お茶をゆっくり楽しめるようにと、リンダなりのコレットへの心遣いだ。
主にはいつも笑顔で過ごしてほしいと思っていて、リンダ自身も常に柔らかい表情を心がけている。
そんな彼女だが、今日は少しむっつり気分を隠せないでいた。
コレットのカップにお茶を注ぎながら、少し口を尖らせて言う。
「コレットさま。サーラが食べられることを、侍女の誰も知りませんでしたわ。“そんなこと知っていたら、ちゃんと話すわよー”とか“それで、本当に食べちゃったのー?”なんて、笑われてしまいましたわ」
庭園での一件のあと、リンダはそれとなく仲良し侍女たちにいろいろ聞いてみたという。
「あのひげのミネルヴァさまは、農業大臣だそうですの。うわさによりますと、内戦では陛下と敵対する勢力のほうに通じていたとか。降参したときに陛下に忠誠を尽くす誓約をして、どうにか刑を免れたそうなんです。表面的にはおとなしくしておられますけど、今でも陛下のことをよく思っていないに違いありませんわ」