狼陛下と仮初めの王妃
だから、婚約者であられるコレットさまにいたずらをしたのですわ!と忌々しげに言って、ティーポットをワゴンの上に戻した。
そして気分を変えるように深呼吸をしたあと、笑顔になり、コレットの前にお茶と焼き菓子を置いた。
「コレットさま、どうぞ」
リンダのコレットを見つめる様子は、さっきまでのむっつりした表情とはまるで違い、何かを期待するような気を放っている。
今日のお茶には秘密があるようで、そのワクワクとした様子がコレットにも伝わる。
「リンダ。今日のお茶はいい香りね。いつもと違うわ?」
「お気づきとはうれしいですわ!さすがコレットさま。今日は、ローズティーにしてみたんです。これは今街で流行っていて、すぐ売り切れてしまうものなんですよー」
即座に破顔したリンダは、手に入れることができた時の武勇伝をひとしきり語りはじめた。
今日のお昼はたまたま街に出る用があったので、ついでにお茶屋に寄ったのだと話す。
「……ですから私、一生懸命走りまして。それで、最後の一個を掴んだんです!」
身振り手振りも交えて楽しげに話すリンダに相づちを打ちながらも、コレットは亡き母のことを思い出していた。
彼女もお茶が大好きで、新茶を手にいれるたびに、すごくうれしそうに笑っていた。
あの内戦さえなければ……と、今でも悔しく思う。