狼陛下と仮初めの王妃
消え入るような小さな声を出すと、陛下は華奢な腰に当てた手にぐっと力を込めた。
その影響で、コレットの体が陛下に密着してしまう。
目の前に広い胸があり、ほとんど抱きしめられている状態になっている。
「コレット・ミリガン。分かってないようだが。君の初めての相手は、ほかの誰でもない、常に私だ」
“下手なのは承知の上だ”と低い声でささやかれ、緊張と胸のドキドキで足がもつれてしまいそうになる。
それでもなんとか一曲を踊りきり、互いに礼をして終えた。
上手くはないけどダンスができた。
ちょっとした達成感を味わってホッと息を吐いていると、アーシュレイはあと二、三曲踊りましょうと言ってメガネを光らせる。
「え、もう十分ではないでしょうか」
「何を言うのです。陛下と踊れれば、あとの殿方など動く南瓜ですよ!習うより慣れろ、です。さあがんばりましょう!」
「は……はいっ」
それから十曲ほど踊り、コレットが身も心もクタクタになると、ダンス教育は終わりを告げられたのだった。
「ありがとう…ございました……」
婚姻の儀式までは、あともうわずかである。