狼陛下と仮初めの王妃


「そうだよ、アリス。お相手は、異国のお姫さまだろ!?陛下が熱望してお迎えになられるって噂の!」

「そうだったねえ、すっごい急で信じられなかったけど、鐘が鳴るってことは本当なんだね!!」


急に決まった陛下の婚姻。

お触れはあったけれどお相手については公表されていないため、都の人たちは多様な憶測をしていた。


『城に仕える侍女に惚れたらしい』だの『きっと幼馴染の女性だよ』だの『もともと許嫁がいたんじゃないか』だの。

いろんな噂が飛び交う中、一番有力なのが『外交に出かけたときに異国の姫君に惚れてしまい、連れ帰ってきた』だった。

そして誰もが口をそろえて言う。

『狼陛下が惚れたお方だから、きっと容姿端麗で才色兼備に違いない』と。

『無理矢理さらって来たんじゃないか?』などと言う人もいるのは、ご愛敬。だが、ちょっぴり当たらずも遠からずである。

なんにしろ、陛下が妃を迎えることは、国民にとってはこの上ない喜びではあるのだ。


「そうそう、こうしちゃいられないわ。ニック、葡萄の蔓飾りを入り口に掲げなきゃ!」

「そうだ、祝いの葡萄酒もないと!俺、ちょっと隣の農園に行ってくるよ」


< 69 / 245 >

この作品をシェア

pagetop