狼陛下と仮初めの王妃
「そうだよ、アリス。お相手は、異国のお姫さまだろ!?陛下が熱望してお迎えになられるって噂の!」
「そうだったねえ、すっごい急で信じられなかったけど、鐘が鳴るってことは本当なんだね!!」
急に決まった陛下の婚姻。
お触れはあったけれどお相手については公表されていないため、都の人たちは多様な憶測をしていた。
『城に仕える侍女に惚れたらしい』だの『きっと幼馴染の女性だよ』だの『もともと許嫁がいたんじゃないか』だの。
いろんな噂が飛び交う中、一番有力なのが『外交に出かけたときに異国の姫君に惚れてしまい、連れ帰ってきた』だった。
そして誰もが口をそろえて言う。
『狼陛下が惚れたお方だから、きっと容姿端麗で才色兼備に違いない』と。
『無理矢理さらって来たんじゃないか?』などと言う人もいるのは、ご愛敬。だが、ちょっぴり当たらずも遠からずである。
なんにしろ、陛下が妃を迎えることは、国民にとってはこの上ない喜びではあるのだ。
「そうそう、こうしちゃいられないわ。ニック、葡萄の蔓飾りを入り口に掲げなきゃ!」
「そうだ、祝いの葡萄酒もないと!俺、ちょっと隣の農園に行ってくるよ」