狼陛下と仮初めの王妃
さて、今日王妃となる噂の“異国の姫君”であるコレットは、ガラァ~ン……ゴロォ~ン……と、お腹にずっしりと響くような鐘の音を聞きながら、震える胸を押さえていた。
鐘は時を置いて十回打ち鳴らされるのが決まりで、今は十回目。
この音が鳴りやめばいよいよ儀式が始まる。
「コレットさま。とてもお似合いですわ!陛下もきっと惚れ直しますこと間違いないです!」
「王妃さま、本当にお綺麗ですわ~!」
「王妃さま、素敵でございますー!」
リンダと他二名の侍女は、美しく仕上がった花嫁姿を見て頬を染めて華やいでいる。
特に初対面である二名の侍女たちは、陛下のハートを射止めたコレットに対して尊敬とも憧れともいえる眼差しを向けていた。
あの恐ろしい狼陛下の心を揺るがした唯一の女性なのだ。
気の早い二人はもうすでに王妃さまと呼んでおり、くすぐったいような違和感を覚えつつ、コレットはリンダたちに笑顔を向けた。
「みんな、ありがとう」
コレットがいるのは、ガルナシア城一階にある身支度用のお部屋。
儀式の間の近くにあるここで花嫁姿に変身した彼女は、金細工の枠飾りも美しい姿見の前に立っていた。
花の刺繍の入った豪華な純白のドレスに身を包み、羽のように軽いヴェールを頭に乗せた自分の姿は美しく、まったく別人のよう。
完璧な偽物花嫁になっている。
けれど、純白レースの手袋をしていても、指先の感覚がないほどに冷たい。
それほどに、緊張しているのだった。