狼陛下と仮初めの王妃
「コレットさま。お時間でございます」
「は、はいっ。今行きます!」
迎えの呼びかけに対して震える声で返事をし、リンダが差し出した純白の薔薇で作られたブーケを持った。
「コレットさま、行ってらっしゃいませ」
リンダたちに見送られて部屋を出ると、硬質な靴音が石造りの廊下に冷たく響き、緊張感はいや増していく。
何しろ紙に目を通しただけのぶっつけ本番な婚姻の儀式。
儀式の証人となる見届け人たちは、大臣をはじめとする国の重鎮方が務める。
その中にはあのミネルヴァ大臣もいるはずだ。
彼は、浅はかでないか試すといった理由で、サーラを食べるようにすすめてきた意地悪な大臣。
失敗すれば、顔を見るたびにイヤミを言いそうだ。
というより、儀式自体も止めかねない。
粗相は絶対にしてはならないのだ。
そんなことを考えていると、すぐに儀式の間に着いてしまった。
飴色の重厚な扉を前にして、こくんと息を飲む。
目眩がしそうな緊張の中、儀式の流れを頭に浮かべながら何度も深呼吸を繰り返して怖気づく気持ちを奮い立たせる。
「コレットさま、皆さまがお待ちでございます。そろそろよろしいですか」
「あ、はいっ。すみません!お、お願いします!」
もうなるようにしかならない。
コレットは姿勢を正し、まっすぐに前を向いた。