狼陛下と仮初めの王妃
正装を纏った騎士の手によって恭しく扉が開かれると、真っ赤な細長い絨毯が敷かれているのが目に入った。
その両脇に並んだ椅子に国の重鎮方が座っており、祭壇の前には神妙な顔つきの司祭の姿がある。
壁際には金と銀のリボンでまとめられた紅白の花が飾られてあり……でも、肝心な陛下の姿がどこにもない。
まだ儀式の間に来ていないの?と不安にかられたとき、陛下は扉の陰から姿を現してコレットから数歩離れた位置に立った。
黒の正装を身に纏い、凛とした立ち姿は威厳に満ちている。
「……陛下、本日はよろしくお願いいたします」
コレットは前に進み出て、ブーケを持っていない方の手でドレスの裾を持ち上げて礼をとった。
そして、差し出されているてのひらに、指先をそっとのせる。
「なんだ、震えているのか?」
「はい……あの……すみません。緊張、しています……」
「言ったはずだぞ。君は、何もかも私に任せておけばいいと」
陛下は震える小さな手をぐっと握って自分の腕に絡ませると、祭壇の前まで誘導した。
神妙な顔つきの司祭が厳かに祈りの言葉を唱え、儀式は滞りなく進んでいく。