狼陛下と仮初めの王妃
やがて司祭は、祭壇の上に置かれている小さなテーブルを手に持った。
赤い布が敷かれたそれには、宝石が散りばめられた懐剣が乗せられている。
「では、宝剣をどうぞ……」
式次第は頭にいれていたはずなのに、コレットにはこれをどうすればいいのか分からない。
大きな疑問符を顔に浮かべていると、陛下に体をくるんと回されて向かい合う形になった。
そして手にあるブーケを奪い取られて、代わりに宝剣を握らされる。
「私は、この身に代えて君を守ると誓う。そして王妃である君に私の命を預ける。不義があれば、この剣で私の胸を貫け」
そう言った陛下の瞳が、鋭い光を放った。
コレットは手の中にある宝剣を見つめた。
手のひらよりも少し大きなそれには、透明の石を中心に深紅の石と深い青の石が等間隔に埋め込まれている。
見た目よりもかなりずっしりとしており、王妃の責務の重さを感じた。
再び見上げれば、偽の儀式なのに、見つめてくる陛下の瞳はとても真摯で……コレットは不思議な感覚が胸に生まれるのを感じた。
それは温かいような、くすぐったいような、言葉には言い表せないものだった。
「はい……陛下」
小さな声で返事をすると、顔にかかるヴェールが取られ、頬が両手で包まれた。
すっぽりと大きな手のひらに包まれたコレットは、戸惑いつつも覚悟を決め、そっと瞳を閉じた。