狼陛下と仮初めの王妃


無言でスタスタと歩く陛下に運ばれていくコレット。

目の前にある綺麗な銀の髪がさらさらと揺れるのを、不思議な気持ちで見つめていた。

癖のない銀糸のような髪の隙間からは、陛下の耳がちらちらと見え隠れしている。

ふっくらとした耳朶には、リング型の金のピアスがふたつあった。


陛下はどうして司祭の宣言を待たずに儀式の途中で退席したのだろう。

どうして、誓いのキスを変えたのだろう。

最初は、あのままキスをするつもりだったはずだ。

言っていた通り、キスをするのを人に見られたくなかったからか。

それとも、偽の花嫁にキスをするのが嫌だったのか。

それとも……と、もう一つの可能性を頭に浮かべて、すぐにそれは違うと打ち消した。

だって、陛下はいつだって強引なのだ。

コレットのことを気遣うなど、ありえないことだと思う。

現に今もコレットの意思もこの後の段取りも関係なく、どこかへ連れて行こうとしているんだから。

リンダたちの待つ身支度部屋の前はとっくに通り過ぎてしまった。

それに、何故か階段を上り始めている。

本当に、どこまで行くつもりなのか。

まさか、お部屋に行くの??と、コレットは我慢できずに、おずおずと声をかけてみた。


「あの、陛下?……今から、どこへ行くのですか?」

「執務室だ」


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