狼陛下と仮初めの王妃


……執務室。

政治や仕事のことが分からないコレットでも知っている。

執務室とは、陛下が政務の仕事をするお部屋だ。

どうしてそこに?

そんな大事なお部屋に入ってもいいのだろうか??

盛大な疑問符を浮かべていると、白い扉の前でそっと下ろされた。

儀式の間からここまで、ずっとコレットを運んできたというのに、陛下は息ひとつ乱れず涼しい顔をしている。

陛下は、逞しい……。


「……入れ」


スッと腰に手を当てられて、コレットは導かれるままに中に入った。

執務室の中はとても広いけれど、分厚い背表紙の本が入れられた書棚が、ふたつの壁を覆い尽くしていた。

そのわずかな隙間に、前飾りが茶色い木枠のシンプルな暖炉がある。

大きな執務机は窓の方に置かれていた。

机の上には、書類らしきものが何枚かと黒い羽ペンがひとつ転がっている。

出したままの状態ということは、儀式のある日でもお仕事をしていたみたい。

それだけ陛下のお仕事は忙しいのだ。


陛下が机の向こうにある窓を開け放つと、レースのカーテンがふわりと揺れる。

風で書類が飛びそうになってしまい、コレットは咄嗟に手の中にある宝剣をペーパーウェイト代わりに置いた。


「今からバルコニーに出るぞ……君は、足元をよく見ろよ」

「え……バルコニーに?どうして、……あっ」


慌ててしまったこともある。

部屋とバルコニーの段差は思いのほか大きくて、ヒールを引っかけてしまった。


「きゃあっ」


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