狼陛下と仮初めの王妃
バランスを大きく崩してしまい、手をバタバタさせてもどうにもならない。
コレットは、バルコニーで待つ陛下の腕の中に、ぽすんと、飛び込む形になった。
頭の上では、ふぅーっと、大きな息が吐かれている。
呆れているのだろうか。
「まったく君は、世話が焼ける……気を付けろと言ったはずだが?」
「は、す……すみません」
「まあいい。これも慣れてきた」
陛下の胸に飛び込むのはこれで二回目で、自分の体の鈍さに愛想が尽きてしまう。
恥ずかしさに頬を染めながらも体勢を立て直すと、下の方から、わーっ!!王妃さまだー!と、歓声が沸き上がった。
「え……?」
驚きながらも下に目を向けると、騎士や城で働く人たちがたくさんいて、陛下とコレットに笑顔で手を振っていた。
「アーシュレイが城の皆を集めたんだ。一時的な王妃と言えど、君は彼らの上に立つことになる。顔見せだ」
「わたしが、この、皆の上に……?」
「気負うことはないぞ。君は、ありのままでいればいい」
そうだった。コレットは、陛下の仕事は国全体の管理で、王妃の仕事は城の管理だとアーシュレイに教育されている。
集まっているのは、全部で二百人以上はいるのだろうか。
シェフに侍女に作業着、様々な服装でいる。
こんなにたくさんの人が城で働いているんだと、感心してしまうほど。
だが、陛下はこれで全員ではないという。
手を振る彼らの笑顔が、王妃の存在の大きさを実感させた。
これから城内の人の采配などは、コレットが命じることになるのだ。
漠然と感じていたことが、少しずつ手ごたえのあるものに変わっていき、思わず身震いをした。