狼陛下と仮初めの王妃
まもなくして、陛下にぐっと腰を引かれて部屋の中に戻されたコレットは、小さな鍵を渡された。
これにも、綺麗な青い石と透明な石が嵌め込まれてあり、日の光を受けてキラキラと光っている。
「わあ、綺麗ー!」
思わず感嘆の声が出てしまう。
扉があかないようにするだけの道具がこんなに美しいなんて!と、城で使う道具はいちいち華美だと感心してしまうのだった。
「それは、この階の隅にある王の書庫の鍵だ」
「王さまの……?そんな大切な場所の鍵を、どうして、わたしにくださるのですか?」
「君に必要だと判断したからだ。書庫には、今までの歴史や法などが書かれた書物がある。国で起こった事件の記録などもある。閲覧したければ自由にすればいい」
「はい、ありがとうございます」
「それから、その鍵は宝剣同様に大事なものだ。絶対に、なくさないように」
いいな?と念を押す陛下の瞳が、キラリと光る。
宝剣と書庫の鍵。
陛下から渡されたものはどちらも重要なものだ。
お沙汰で始まった偽の関係と言えど、とても信用されていることを感じる。
コレットは、できうる限り役目を果たさねばならないと思うのだった。
そう、アーシュレイが、心身ともにふさわしい本物の王妃さまとなるご令嬢を、見つけるまで。
「陛下、わたし、偽物王妃としてがんばります!」
精一杯の笑顔を向けると、何故か陛下は、くるんと背を向けてしまった。
「君は……不意打ちをするな」
「え?」
尋ね返すコレットだけれど、陛下は「リンダが迎えに来るのを待て」と言い残し、執務室から出て行ってしまった。
「陛下……まさか、怒ってしまったの?どうして?……不意打ちって、なに?」
いくら考えても分からない。
コレットは、宝剣と鍵をしっかりと握りしめ、リンダを待つことにした。
この大切な二つを、どうやって管理すればいいかと考えながら。