狼陛下と仮初めの王妃
いつ、入ってきたんだろうか。
ランプに伸ばしていた手は下ろされてしまい、コレットの頭の上に延びていた陛下の手がカチリと灯を消した。
ヒールを履いていないので、いつもよりも陛下の背が高い。
壁と彼の間にすっぽりと嵌っていて身動きできず、コレットの胸がトクトクと鳴ってうるさくなる。
お部屋に来ることはちょっぴり考えてはいたが、まさか現実になるとは思っていなかった。
「あの……どうして、ここに来たんですか?」
「どうしてもなにもないだろう。婚姻を結んだ妃のところに来るのは、当然のことだぞ。ちょっと待ってろ」
部屋の中をスタスタと歩き回り、手際よく壁のランプを消していく。
そんな彼の姿を目で追いつつ、コレットは陛下の言葉の意味を考えていた。
偽装のはずではなかったのか……?
やがてベッドサイドの灯りだけが残り、薄暗くなった部屋の中で固まって動けないでいるコレットの元に、陛下がゆっくり近づいてくる。
逆光の中、目の前で銀の髪がさらりと揺れたと思った瞬間、華奢な体はすっぽりと腕の中に収まっていた。
「あ……」
「ふむ。少し、堅いな。緊張してるのか」