狼陛下と仮初めの王妃
力強く抱きしめられ、大きな手のひらは豊かな髪を弄んでいる。
鍛えられた逞しい胸に頬を預けながら、コレットは喉に詰まっていた声を絞り出した。
「陛下、あの……婚姻は、偽装なのでは、ないんですか……?」
「偽装だが、妃の元に通わねば皆が怪しむだろう。ましてや、今夜は初夜の儀式だ」
髪を撫でていた陛下の手がうなじに滑り込み、コレットはくすぐったさに首をすくめた。
指先でツーッと首筋を撫でられ、おまけに頭の上では小さなリップ音がしている。
「あの、陛下……?」
「会食の後、笑ってすまなかった。君の両親が亡くなったのに、見届け人たちの反応が愉快すぎて、つい笑った」
「あのことは、気にしていません。むしろ、陛下が楽しそうにしておられたのが、わたしにはうれしかったんです」
「……そうか。君は、そう思うのか」
陛下の腕に力がこもり、コレットの鼻が胸に押し付けられて息苦しくなる。
呼吸を確保しようとして、手を顔と陛下の胸の間にねじ込むと、ますますきつく抱きしめられた。
どうしてこんな事態に陥っているのか、コレットにはさっぱり分からず、疑問符が浮かぶばかり。
「私は、国王陛下として、二度とあのような戦争を起こさないと誓う。だから、許してくれるか」
「ゆ、許します……許しますから。あの、離して、ください。く、苦しいですっ」