待ち人来たらずは恋のきざし
嘘も隠しも無く、あの男にメールをした。
課長が高熱で具合が悪いから帰りに送って来た事。
体調に異変があるといけないから、様子を見て居る事。
送り届けたら帰ってくればいいと言われるかと思ったが、返って来た言葉は、解った、だけだった。
…う、ん。
確かに、関わらなくてもいい、放っておいてもいいって、それは解ってる。
だけど、これが流されてる馬鹿な女の行動だろうって、自分でもよく解っていた。
病気の時、一人で居る事の辛さや心細さはよく知っているから。
それに男の人は、本当に何も出来ない場合もあるから。
最近まで奥さんが居て、何もかもして貰っていたら、余計だ。
それが今この部屋の現状だ。
孤独だって…、如実に現れているから。
…この人は知らない他人じゃないから。
たまには限界が来て洗濯もしているのかも知れないが、これは…一人の一日や二日の溜まった量じゃない。
リビングの隅に縛られ纏められたコンビニの袋。
当然、中はゴミなんだけど。
分別しないとゴミ出しも出来ない。
多分だけど、結婚前の一人の時は出来ていただろうと思うけど。
…はぁ。離婚は疲れるモノなんだな…。
綺麗な部屋なのに暫く掃除機もかけていないだろう。
ロボット掃除機を買う事を勧めようか。
洗濯をして乾く頃にはリビングのゴミも片付いた。
今のうちにゴミステーションに持って降りよう。
課長を覗いて見た。
…寝てるかな。
一応小さい声で、ゴミを出してくる事を告げた。
大きな袋を二つ手にしてエレベーターに乗りボタンを押した。
1階に降りゴミを置いた。
またエレベーターに乗り、6階のボタンを押した。
ふぅ、部屋に戻り、課長の様子を窺った。
寝てるようだ。
渇いた洗濯物を畳み、寝室に入った。
さっき聞いたからだいたいのしまう場所は解る。
クローゼットやチェストの決まった場所にそれぞれしまった。
課長…。汗が凄い事になってる。
タオルを絞って来よう。
首が濡れる程汗をかいていた。
「課長?苦しいですか?
少し、胸の辺りも拭きますよ」
「…ん」
額や首を拭いた後、遠慮無くスウエットの裾から手を差し込み身体を拭いた。
おでこに手を当ててみた。
はぁ…まだまだ、熱は下がりはしない。
汗をかいたら着替えさせないといけないだろう。
濡れたままでは良く無い。
はぁ、本当、こうなったら中途半端に放っておく訳にはいかない。
「…課長、なんで、あの時、結婚したんですか…。
こんな、…一人になるって、解ってたって言うのに。
どうせなら、結婚したんだから、大人の都合を貫き通せば良かったじゃないですか」
これではずっと虚しいじゃないですか。
そんな聞きたくもないだろう事を話し掛けながら腕も拭いた。