待ち人来たらずは恋のきざし


課長の寝ている側で、顔を伏せて少し眠っていたようだ。

課長の手が頭に触れていた。ゆっくり撫でていた。

「…ん、あっ、起きてたんですね。
今のタイミングで着替えましょうか、もう汗でぐっしょりですから。
出して来ます」

着替えを渡した。

「私、ドアの外に居ますから。シーツも換えたいので終わったら呼んでください」

「…解った」


寝室を出た。

初めに遠慮無く脱がせてしまってるのに、今更だけど。
良かった、自分で着替えられるならそれに越した事はない。

まあ、いざとなったら、また私が身包みを剥がしていたけど。


「浅黄〜?」

終わったんだ。
部屋に入った。

「シーツも換えさせてくださいね、なるべく手早くやるので」

「ん…」


バサバサと新しいシーツを掛けた。

「熱は?どうです?下がった感じがしますか?」

「…自分じゃよく解らんな。だけど、苦しくはない」

「あー、じゃあ、少しはマシになったんですかね。
私も医者じゃないんで、解りませんが」

「悪かったな、浅黄。こんなに世話をして貰って」

「回復したら、食べた事のないご飯を奢って貰うからいいんです。
精算はそれでいいですよね?」

「あぁ、…いいよ。ぅ…ゔー、寒っ」

「あ、すみません。早く、布団に入ってください。
何か上に羽織っていたら良かったですね、すみません、気がつかなくて」

横に居た課長がベッドに横になったから布団を掛けた。

「いいんだ。ん。…なぁ、浅黄。
もう帰ってもいいぞ?」

「…もう、課長。今何時だと思ってるんですか?
真夜中過ぎてるんですよ?
もう、朝が近いって言った方がいいくらいの時間です。
早朝って激寒な時間じゃないですか。
今外に出たら…こっちが風邪ひきます」

「そうか、…もうそんな時間になってたのか。はぁ、…すまん」

「フ。何回、すまんて言うつもりですか」

「すまん。少しは寝たのか?って言っても、…寝られなかったか」

「はい!」

「フ。だよな。…面白いよ、浅黄は。来い、ほら」

「え?」

「寝よう、一緒に」

「え゙、あー…それは」

「怯むなよ。大丈夫だ。
何もしやしない、俺は病人だ。大丈夫だ。ほら、入れ。
早く、寒い」

…もう。
言われて入る私も私だけど。


「これは脱がすぞ」

「え、あ、カーディガン。はい、自分でします」

「そうか。これも脱いだ方がいい」

「え゙っ」

これは…。だけど、スカートや、ブラウス、ストッキングを穿いたままでは寝られない…。

「自分で出来ます」

「それは残念…。ボタン外すくらいなら、手伝えるぞ?」

「もう。病人は大人しく、でしょ?」

ゴソゴソと身をよじりながら脱いだ。

「じゃあ、病人の特権だな。
浅黄、温めてくれ」

課長に柔らかく抱きしめられた。

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