待ち人来たらずは恋のきざし
本当にカクテルに使われていたものと同じ度数なんだろうか。
確かに喉越しはシュワシュワしてはいるけど、軽い割にちょっときつい気もする。
アルコールの違いを語れるほど知りもしないのだけど。
そうよね、カクテルは桃の味が凄くした。
ジュースで割ってあるんだった。
必然的にアルコール濃度は薄くなっていたはず。
だったらこれは…私が今飲んだこれは、それからしたら倍くらい濃い事になる?のよね。
グラスを持ったまま眺めていた。
「景衣…飲んだのか?」
「あ、…はい、…やっぱりちょっと違う。
理屈からして、強いって事になりますよね、これって」
「ああ、そうだな、…そうだ、カクテルよりはきついってなるな」
「やっぱり…そうよね」
「風呂、入れる。大丈夫なら先に入るか?
…止めといた方がいいなら今は止めとくか」
お酒が理由で入らない訳じゃ無いけど。
「…はい、ドキドキ…、動悸が激しいから無理です。
あと、ちょっとして、落ち着いたら…家に帰ります」
グラスを置いた。
「まだそんな事言ってるのか?
…意識がある内に言っておく。
一度言ったけど、泊めたからって襲ったりしない、何もしない。それは信用して貰うだけだが。
とにかく夜も更けた。帰るには危ない。
俺に送られるのは嫌なんだろ?
部屋…、知られたく無いんだろ?」
頷いていた。部屋、知られたく無いとか、はっきり解ってしまった…。
「だったら泊まれ。それが解決策だ。
まあどっちにしろ、少し休んでれば?
俺は風呂入って来るから」
そう言って男は浴室に行った。
…はぁ、歩けるかな。大袈裟かな。
座っていると解り辛いから。
お水、飲めば少しはマシになるかな。
頬を触って見る。
また火照っていた。動悸も激しい。
こうなる事は解っていても、このワインは飲まなきゃと思った。
残りも飲み切った。
…ふぅ。…帰ろう。
もう少し経って、男が間違いなくお風呂に入ってると確信出来てからにしよう。
ここに来た時みたいに勘繰られて、追い掛けて来られないとも限らない。
…これは自惚れかな。
そんなにしてまでは…無い、有り得ないだろう。心配してくれるとかにも、限度がある。
もうそろそろ大丈夫だろう。
早く出て来るかも知れないから、今の内に帰らないと。
浴室の前を通るのは凄く緊張したけど、シャワーかな、水の音がしていたから少しホッとした。
息を潜め、足を忍ばせ通り過ぎ、玄関のドアをソッと開け外に出た。
またソーッと閉めた。
ふぅ…。よし、やっと帰れる。よしっ。
エレベーターは使わず階段を下りた。