待ち人来たらずは恋のきざし
階段を下まで下りて、振り返って見ても何も異常が無かった。
はぁ、とにかくここまで来たら後は急がなくては。
もしもエレベーターなんかで降りて来られたら、あっという間に捕まってしまう。
バッグをしっかりと握り、駆け出した。
ここから家までは大した距離では無い。
直ぐに帰れる。
はぁ、元々ドキドキして苦しかった胸が冷たい空気を吸い込み走ってる事で更に激しく苦しくなった。
人にとって大した量でも無いアルコールが、私にとってはとんでもなく苦しい劇薬だ。バクバクする。
頭がズキズキと痛む。
はぁ、もう…止めた、これ以上は無理、走るのは無し。アルコールが回る。
歩いたってもうそこだもの。
マンションは小さく見えていた。
はぁ、引ったくりにも遭わなかった、勿論、変質者にも。
マンションに入り階段を上がった。
部屋のドアを開けた。
中に入った。
はぁ…、疲れた、…もう駄目、もう…眠くなって来たじゃない。脱力感が半端ない。
ズル、ズルと、玄関でへたりこんだ。
自然と瞼が閉じる。
あぁ、これの事ね、あの男が言っていた、眠くなって無いかって聞いて来た事…。
カクテル二杯と…ワインを少々…身体が吸収している。
…今なら言いますよ。
「眠くなって来ました…」
「飲んだからだよ」
…うん、確かに。
こんなに急に眠くなったのは走ったからもある…かな。
「走ったから…ドキドキもして、苦しいのよ…」
「そうだろうな」
「もう…寝ます…眠い…」
「解った、任せろ」
…んー…私、誰かと話してる…のかな…。
独り言に返事が聞こえるなんて…やっぱりお酒は止めよう。…身体に…合わないんだ…。
酔って、幻聴なんて…病院で聞いてみた方がいいのかな…。みんななるのかな。…ただの酔っ払い?
「幻聴が…します、…先生?…大丈夫でしょうか。
私…お酒、駄目なんですよ…本当弱すぎて、なのにちょっと飲んじゃって…ふぅ」
「大丈夫だ。休めば治まるから」
カチャッと金属の音がした気がした。
身体が浮いた気がした。
…遊体離脱…?違う…自分の身体を抜け出してはいない、何だっけ…、空中浮遊だ。
これがそうなのかなぁ。これも聞いて見た方がいいのかなぁ。
「邪魔するぞ」
あ、浮いて動いてる…。凄い…夢?