待ち人来たらずは恋のきざし


何だか不思議な気がした。

目が覚めたらベッドに寝ていた。
それは当たり前の事なんだ。

…朝だ。…ん゙ー。

確かに自分の足で走って、歩いて帰って来た。確かに。

部屋にだって入った、記憶がある。

ただ…その後の事、何だか覚えてない。

だけどこうして寝ている。
…いいのか、な?


起きて部屋を見ても特に変わった事もなさそうだし。

でも、な〜んか違和感が…。

……ぁ、あ、あった。違和感の元!

大きな着ぐるみが居た。
コートを被った塊が丸くなってソファーに寝ていた。


「あ、あ、ちょっと!」

「…んあ、あぁ…おはよ」

何がおはよう?

「あ、あの、あのですね、どういう事?何故居るの?…解らない、ねえ、どうして?何、これ。
なんでうちに貴方が居るの?
どうやってここに?…え?」

「フ、まあ、そう寝起きで一気に興奮すると血圧が上がる。血管が危ない。
取り敢えず落ち着いて、まず深呼吸しようか。
はい、息をゆっくり、吸って〜、はい、吐いて〜」

「スー、ハー、スー、ハー…。

…ちょっと。違う、こ、これが、落ち着いてなんて…あ、ちょっと待って。
…解った、貴方…後をつけて来たのね」

「ピンポ〜ン、正解。
正しくは、距離を取って、見守りながら送って来たが正解だ」

「…送って来た?」

それを世間では尾行と言うのよ。

「ああ。出し抜くつもりだったんだろ?俺の事。
最初から、俺が風呂に入ったのを見計らって帰る気で居た。

あんなに帰る帰るって言ってるのに大人しく居るはずが無い。

風呂に入って少し経って、間違いなく入ってると思って出て行ったんだろ?…甘いな。
水の音がしていても、覗いて確認しなきゃ。解んないだろ?
シャワー出しっぱなしにしてるだけかもって疑わなきゃ…」

「入って無かったの?」

「悪いけど入って無かったよ?
こっそり帰られてそのままだと、安全に帰り着くか解らない、心配だからな」

あ…、それ…。結果、はっきり部屋がバレてしまったじゃない。

「今日、仕事は大丈夫なのか?」

「あ、…うん、はい。今日は午後からだからまだ大丈夫、余裕です」

え、何だか話を上手く変えられた気がする。

「そうか。じゃあ…さ。朝飯食って買い物に行こう」

「はい?買い物?何故?」

「朝飯は腹が減ったから。買い物は、景衣の誕生日のプレゼントを買いに」

…、あ、それは。

…朝ご飯はどこで食べるのよ…。
買い物に出掛けるなんて…まず今の私はお風呂に入りたいのよ。…あ、今、どんな顔よ…。
目の周りが黒くなってるとか、髪がグシャグシャになってるとか…、考えたら恐過ぎるんだけど…。


「景衣、パジャマ、それで良かったか?」

「…え、……え?」

…何…どういう事です?

はぁ…そうよね。知りたくない事が徐々に見えて来た気がする。

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