待ち人来たらずは恋のきざし
「簡単で申し訳無いですけど」
ご飯は炊けた。
玉子焼きと白菜の漬け物。鮭を焼いた。
後は好みで梅干し、佃煮。
それらを面倒だからランチプレートに盛った。
具沢山のお味噌汁も出来た。
「はい、…どうぞ。先に食べててください。あ、お茶入れます」
「有難う、景衣は?」
「私は、ちょっと、お風呂に」
「…そうか、何だか悪いな、何もかも先に」
「いいえ。朝ご飯は色々…お礼だと思ってください。
お世話、…私の知らないところでも多分かけたと思うので。
だとしたら、これでは少な過ぎる事になるけど」
「いや、別に。これは遠慮無く頂く事にする」
「はい。あ、ご飯とお味噌汁はまだありますから、自分でなんて申し訳無いけど、好きなだけお代わりしてください」
「有難う。頂きます」
「では、…私はお風呂に」
…あ゙ー、目茶苦茶、気まずいわ…。
ベッドに運んでくれた、
そして着替えも…。
自分でベッドに行って、着ていた物を脱いでそのままにせず、綺麗に畳んで、更にパジャマなんか着るはずない。
一人ならクラクラもたもたして、目茶苦茶散乱して、あられもない姿で辛うじて寝てたはずだもの…。
…本当に何もせず、お世話だけしてくれたんだ。…信用してくれってずっと言ってた。
嘘じゃ無かったんだ。
…あ、は、…ある意味、ちょっとは悲しい面もあったりして…。
服を脱がせて、多少なりとも…裸に近い姿を見てるはず…。
着替えさせ、ベッドに寝かせても、そんな事をしようと思う気にならなかった…。
私には、襲われる程の魅力は、…無かったか…。
…まあ、何でもいいよ。…。
この男は誠実だった、という事だ。
はぁ、長く浸かっていたい気分だけど、今は無理。
シャワーで済まさないと、知らない人が居るって…気が気では無い。
今度はさっきとあまり差が無い程度に綺麗にメイクを仕上げなきゃ。
はぁ、落として塗って、また落として、また塗って…。
女って本当面倒臭い事ばっかり…。今日は特に。
会社でのお直しを入れたら、何度塗ればいいのよ…。
大して長くも無い髪だけど、乾かすのに一番時間を取られたかも知れない。あん、ブローもしなきゃ。
お風呂から戻ったら、男が後片付けをしているところだった。
…早く済ませたつもりだったんだけどな。