待ち人来たらずは恋のきざし
はぁ…こんな日もあるよ。日と言うか、時間にしたらほんの二、三十分程の事。長~い人生を考えたらこれはほんの少しの事よ。
明日は休み。気晴らしになるなら少し寄り道して帰ってもいいけど…。
…ううん、こんな時は、真っ直ぐ帰った方がいい。更に何か嫌な事が重なっても後悔するだけだし。
大人しく部屋に居る方が無難よね。
…はぁ。
お弁当買って帰ろかな…。
帰ってから作ろうなんて気力はとうに失せているし。
そしたら、多分、何も食べなくて、ボーッと座り続けてしまうのは目に見えている。
…うん。お弁当屋さんに寄ろう。
帰る道に惣菜を手作りしているお弁当屋さんだ。
「…こんばんは」
「あら、いらっしゃい。お疲れ様、今帰り?」
「はい。…えっと…どれにしようかな…んー、チキン南蛮弁当、ご飯は少なめの、…五穀米で、お願いします。
あ、あと」
「ポテトサラダね?」
「あ、はい。フフ、お願いします」
ケースからパックされたポテトサラダを出している。
「今日は何があったの?」
あー、ハハ…、バレている。
「はい…いつもの事です。ちょっと落ち込んでるだけです。
パッと忘れるしかないです。
それもいつもと同じです」
「そうよ、考えたって仕方ない、過ぎた嫌な事は忘れた方がいい。
これも食べない?入れておくから」
「あ、でも、来た時いつも…」
「いいのよ、もう時間も時間だし、ね?
持って帰って貰った方が助かるのよ。
それより、たまには元気がある時にも寄ってね?」
「はい…。すみません、いつも有難うございます。あ、お箸は大丈夫です、要りません」
「はい。解ってます、入れてませんよ?フフフ」
筑前煮ときんぴら牛蒡を袋に入れてくれた。
おまけね、と、カップのお味噌汁も追加して入れてくれていた。
お弁当が詰められて持ってこられた。
甘酢の香りがしてる。
…お腹、空いてきたかも。美味しそうだ。
「はい、お待たせ致しました。
気をつけて帰ってね」
「はい、有難うございます、大丈夫です。
寄って良かったです、元気が出て来ました。
おやすみなさい」
代金を丁度支払って、袋を受け取った。
「おやすみなさい」
このお店のおばちゃんはお母さんのような人だ。
私の名前さえ知らないのに。
寄る時はいつも沈んでいる時だから、さりげなく元気付けてくれる。
んー…最近は、もう、さりげなくではなくなったかな。
つまりは、少ないと思っていても、落ち込む日は割とあるって事になる。
それだけ、印象が残る程、来ているって事だ。
そうよね…、おばちゃんが言うように、たまには普通に元気がある日にも来なくちゃね。