待ち人来たらずは恋のきざし

「…それでですね、このお弁当屋さんのおばちゃんが、私の顔を見たら、もう、何かあったから来たのね、って感じで、解ってしまってるの。
そんな時にしか私が寄らないお客さんだからですよね」

「まあ…二度目からも同じように?鈍よりした顔で来られたら簡単だよ。そりゃバレるよ」

「…はい。だから、たまには普通の日に来てって。…はぁ。
そうですよね、そんな日にも行かなきゃ失礼な気がしてます。
いつも元気が無い分、気を遣ってくれて、お弁当以外にも沢山貰ってるし」

「それはまあ…いつ行くかは買う方の自由だろ。
何となく、そうしなきゃって気持ちは解るけどな」

安心して貰いたい、元気な自分だって居る、それを見せたいって事だよな。

「はい…。あー、そろそろ片付けちゃいますね」

買って来たものは、お皿に盛り付け直していたから洗い物はある。
一人ならきっとそのまま出して食べていた事だろう。
結局、少なめで入れて貰ったお弁当の五穀米は、何となく二人で分け合った。

思えば、今日なんでこの男は家に来ていたんだろうか。
何か用でもあって来たのなら、とっくに言ってるだろうし。
…何だかんだで、何も尋ねても無いけど。
私だって男のした事に戸惑いは隠せなかったから、食事中も誤魔化すように会話をずっとしていた。

「ん?何?」

片付けを手伝ってくれていた。
…嫌だ、私、洗う手を止めて見てたのかな。

「あ…何でも無いです」

近くでよく見たら…端正な顔をしている…。

「景衣、泊まってもいいか?」

…。えっ。

「…え゙っ。今…、なんて言いました…」

「フ、…そんなに驚くか?
泊まってもいいかって言ったんだ」

「わ、解ってます、言った言葉は解ってます。
お、驚くでしょ…何、サラっと言ってるんですか。
何ですか?泊まるって」

「何ですかって…泊まるは泊まるだろ。言葉通りだ。
別に初めてじゃ無いし」

「それは…、それは違う気がします、…うん、明らかに違います。
この前のは成り行きで、仕方なくみたいにですから…承諾して泊めた訳ではありません。
私にして見たら、気がついたら…朝居たんです、貴方が」

そうよ、あの時は成り行きで、貴方が勝手に居たのよ、朝まで。
泊まっていいなんて言って無い。
それに今日なんて、そんな成り行きでも無く、泊まる理由だって無い。
…え?泊まる為に来てたって事?

「それで?何?」

あぁ、また顔を見てしまってたのか…。

「貴方…今日って、もしかして、泊まる為に来てた、とか、ですか?」

「それ以外に景衣の部屋に来る?」

「…、え?!」

「欲しいんだろ?」

「え゙?!欲しいって、何を…あっ」

泡の付いたお皿を落としそうになった。…セーフ。あたふたした。

「フ。そっちこそ。そんなに焦って…、何考えてんだ?
待ち人だよ。
いい方向に導いてくれる人間。
欲しいって言っただろ?」

「あ…」

言った。確かに言ったけど、だからって、なんでそれがどうしてこんな展開になるのよ。
あの時…解った、って言ったあの返事は、こういう事だったの?…え?

貴方が私の待ち人になるつもり?…ぇえ?
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