待ち人来たらずは恋のきざし


…襲われる。

「トメロ」

…え?

「水。出しっぱなしだ。
洗い終わってるのに、ほら」

横から手が伸びて来て水を止められた。
…あぁ、…水ね、水…。
水を止めろ、ね…。紛らわしいんだから…。
雰囲気が雰囲気だったから、何かされそうと一瞬でも思った自分もどうかしてる。…もう。…だって。よ…。


「風呂、俺が溜めようか?」

「はい?」

「風、呂。入るだろ?」

「入るけど、いい、それは私がします」

「別に、俺がするよ」

「私がするからいいんです」

「…あのさ。…まあ、いいよ」

「何ですか?途中で止めないでくれます?」

…何よ。

「試して見ればいいって事」

「何を」

「…はぁ、…あのさぁ、話の流れで解るだろ?」

「何が」

「別に好きな奴とか、誰も居ないんだろ?」

「…居ない、ですけど」

「だから、言ってるだろ?
会ったんだから、俺と、試して見ればいいだろって。
それも有り、だろ?」

…からかってるの?どこまで本気で言ってるの?

「泊まる。決めて来たんだ。だから、泊まる」

「だから、それは…」

「何度も何度も、同じ言葉を繰り返すだけだ。
何者か解らない俺に信用なんてもんは無いだろう。
だけど、何もしないから心配しなくていい。
風呂、溜めてくる」

「あ、ちょっと…」

うちのお風呂でしょ?
溜めていいかどうか、主導権は私にあるでしょ?


「景衣が先に入って。
俺は後から入るから」

もう。順番まで勝手に決めて…。
…ちょっと、ちょっと?今の言い方、聞き捨てならないわよ?
まさか一緒に入ろうとして無いでしょうね…。

「ちょっと!一緒になんて絶対入らないわよ?」

「は?…フ、何考えてる。
勘違いしてるぞ。
景衣が1番で、出たら俺が2番って意味で言ったつもりだけど?
そんな事考えてるなら構わないぞ?
景衣が望むなら俺も1番で一緒に入っていいけど?」

あ゙ー、変な事、思いついて口に出すんじゃ無かった。

「絶対、一緒になんて入りません」

「それ、いつまで持つかな…」

「え゙?」

「今は入らなくても、その内、入るようになるかもよ?」

「何言って…。入らない、絶対、入らないです。
…そんな関係になっても絶対入らない」

なんでお風呂の事でごちゃごちゃ揉めなきゃいけないの…。


ピー、…。

「あぁ、溜まりましたよ。どうぞ、先にお入りください」

…そんな丁寧な言い方したって、…。
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