待ち人来たらずは恋のきざし

はぁ、もう…結局、温くなってしまうからこうして入ってる…。
だいたい…、一緒に入らないって言ってたって、こうして湯船に浸かっているタイミングでいきなり入って来られたら、どうにも逃げようが無いじゃない…。
そう思ったら、この前シャワーしてた時よりも恐いよ…落ち着かないったらありゃしない。
早く出なきゃ。


…あ、れ?居ない?
広いお屋敷じゃ無い、居ない事は一目で解る。
帰ったのかな…。あれだけ言ってて、それは無い気がするけど…。でも、居ない。


カチャ。

「おー、出たんだ」

居た…。と言うか、帰って来た。どっか出掛けてたのね。

「入るならどうぞ、見ての通り、出ましたから」

「ん。あのさ、煙草、吸ってもいい?」

「え?」

あ、…。最後の一本。
ポケットから出して見せられた。
無くなったから買いに行ってたのか。
聞くくらいだから吸いたいのでしょ?

「別に構わないけど、うち、灰皿が無い…」

「それは大丈夫、これがあるから」

あ、携帯の灰皿ね。

「じゃあ、どうぞ?」

「ベランダとか出なくていいのか?」

「いいですよ、…寒いし。
換気扇回しますから、気にしないでください」

…換気扇回すって言ったら、嫌みみたいに聞こえたかな。
もしかして…お風呂に入ってるから出掛けてくれてたのかな。
だとしたら言って出掛けてくれたら良かったのに。
あー、言ってたら、私、鍵をかけて閉め出したかも知れないか。
黙って出掛けたのが正解だったって事ね。

「あぁ、ついでだったから、これやる」

小さめの袋を渡された。

「アイスクリーム?」

「ああ。寒い時って美味く無い?
俺は夏より冬に食うのが好きなんだ」

「貴方、今、食べますか?」

「いや、今は…。これ中だし。
食うなら風呂上がりに食う」

もう煙草に火を着け、煙を吐き出している。
その煙草をちょっと上げて見せた。

「じゃあ、冷蔵庫に入れておきます。後で食べてください」

「景衣、好きじゃ無かったか?」

「え?好きですよ。
食べるなら後で一緒に食べようかと」

実は私も、アイスクリームは寒い時期に食べるのが好きだったりする。

「…そうなのか」

「はい、私、今はチャイが飲みたいので」

「チャイ?あのチャイ?」

「はい。あ、飲みますか?入れましょうか?
お水とか、冷蔵庫にある物、お風呂上がりに好きに飲んでください。
一々断りとか大丈夫なんで」

「ん、有難う」


ミルクティーを作り、シナモンを入れた。

「…はい、甘さ控え目の、なんちゃってチャイですよ、どうぞ」

「…サンキュ」

シナモンが毛細血管にいいらしいと知って、好きで飲んでた物で何だか得した気持ちになった。
知ってからよく飲むようになった気もする。

…あれ、何だか、いつの間にか、このままでは…お泊りを容認してしまってる気がする。
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