待ち人来たらずは恋のきざし

宣言通り、男はお風呂に行った。…2番目ね。

泊まっていいですよと、はっきり承諾した訳でも無かったけど、このままだと、もう、承諾したのと同じ。
泊まってしまうだろう。
んー、だけど、この前みたいにはいかない。
ちゃんと意識のある人間が、じゃあ、貴方はソファーに寝てください、なんて言えない気がする。
…だけど、どうぞって勧められる予備の布団も無い。…もう。

あ、あの男、着替えはどうするつもりなんだろうか。
どう見ても、来た時手ぶらだった。
泊まるつもりだと言っていた割には準備万端とは違うんだ。
…思いつきの行き当たりばったり?
仕事先からそのまま来たのかな。
コンビニに行っていたようだから、替えのパンツくらいは買って来たのかな。
あの男、私があの男の部屋に泊まる未遂になった時、自分のスウエットを貸してくれるつもりだった。
何か貸せるといいけど。
男の人の服はいいわよ、大きいから。
大は小を兼ねる事は出来ても、小は大にはならない。
んー、着られそうな物は家には何も無いって事。
例えあったとして…貸すとするなら、それは別の男の物だってなっちゃう訳だ…。そんな物、端から無いけど。
どうするつもりなのかな。

「景衣」

わっ。出たんだ。

「は、はいっ」

「あぁ…驚かせたか?悪い。
ベッド?布団?入っていいか?」

後ろに、Tシャツ、パンツ姿の男が立っていた。

「今はまだ大丈夫だけど、冷えて来ない内に入りたい」

…そうよね、…。

「…ベッド、どうぞ」

寝具はベッドしかない。
もう、そう言うしかない。

「じゃあ、入ってる」

「はい。あ、アイスクリームは?いいですか?」

「景衣は?」

「私は…折角だから食べます」

「じゃあ、景衣の食べるやつでいいから、一口だけ食べさせて」

…。


「どっちが好きですか?」

「ん、景衣が好きな方で」

「じゃあ…、抹茶で」

「ん、いいよ」

何してるんだろう…これって、何?
どうなんだろう。

一緒に冷蔵庫を覗き込んで、アイスクリームを選んでいた。
決まったから取り出し、お水も出した。
その場でカップのフタを開け、付属のスプーンですくった。
先に男に食べて貰おうと思った。

「食べますか?」

「うん」

…。

「…はい、どうぞ」

何て事だろう、これでは、あ〜んてしてるようなもの…。口の中に入れた。

「ん…サンキュ。後は景衣ね」

何の躊躇いも無く食べた男は、お水を手にベッドのある部屋に行った。
迷い無く行くところがベッドの部屋を知っている証拠…。
ま、部屋も迷う程ある訳じゃないけど。
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