待ち人来たらずは恋のきざし

…何してるんだろう。
本当にもう。
これ、食べてしまったら…寝なきゃ。
ソファーに座って膝を抱え、カーディガンの前を引き寄せ重ね合わせた。

んー、お試しだって言っても、…だったらまだ泊まったりしなくて、普通にしたらいいんじゃないの?
んー、日中デートとか、今日だって、ご飯食べたら帰るとか。
まだそんな感じからでいいんじゃないの?
信用とかそんなもの、まだ解らない内から、信用してって言ってまで、泊まろうとする事が解らない。
そんなに急く必要は無いじゃない。
…済し崩しに住み着いて同棲でも始めるつもり?
住むところが無い訳でも無いんだし…それは無いか。

…あ、何だかブツブツ考えながら食べていたら、スプーンが何も触れなくなっていた。
アイスクリームはとうに無くなっていた。

んー、ふぅ…。
あいつ、もう眠ったかな。

…。

どう考えても…部屋に入って行き辛い…。

…んー。…はぁ。

待ち人の事…余計な事、言わなきゃ良かった。
だって…好きかどうか解らない人を泊めるなんて…。有り得ないでしょ…。

好きなら泊めても良くて、嫌いなら駄目?
何でも無い人は?…。

はぁ…なんだか、訳が解らなくなって来た。
…そうよ、宿泊施設じゃないんだから。
男女なのよ?
好きでも無い人を泊めるなんて、しなくていいのよ。



…。

寝てるのかな。
ベッドの中の男を覗いて見た。
瞼は閉じている。睫毛長い…。
息使いは……静かだ。

…、解らない。これだけで寝てるかなんて解らない。

…。

ちょっとだけ布団を捲ってコソッと侵入した。
…とにかく、寝るにはこうするしかないのだ。
今となっては無駄とも思える程、あれこれ考えたけど、結局は仕方ない。
こうするしかないに行き着いた。
…無駄な抵抗だった。

「遅かったな。大分眺めてたな。一緒に寝る気になったんだ」

「え゙?」

起きてたの?起こしたの?……起きてたんだ。

「…何もしないから、…まだ」

…、まだとか、余計な言葉を足さないでくれます?信用が無くなるじゃない。
お試しなら、いつかはそんな事…って考えてしまうじゃない。

頭を胸に乗せられた。
え?これ…何か、してるじゃない?

「…あの、これは、何かしてるになるんじゃないの?」

「このくらい、する。狭いし。くっついた方があったかい」

寒いから仕方なく?貴方の胸を…枕代わりって事?

「大丈夫だ。俺は早食いなんてしない。
…ゆっくり、味わって食べるタイプだから」

はぁ?…何言ってるの?…ちょっと。…何言ってるのよ。
この先お試しが続けば、いつかは確実に食べるって事?…続けば、そうか…。
お付き合いが進展したら当たり前にある事なのよね…。

…。

トクン、トクンと規則正しく響いてくる男の心音が、妙に小気味良くて落ち着いた。
この男は、こんな状況でも…落ち着いているんだ。

…お父さん。小さい頃、こうして寝た事があったな。
私、何、お父さんなんて、懐かしんで安心してるんだろう。
第一お父さんなんて、…私より若いのに…。

片腕を身体に回されていると、自分が小さい子供になった気分だった。
左手も自然に男の胸に乗せた。
何だかもう解らない。この状況。
男が言ったように…温かいのは確か。

これって、お試しを受け入れた事になったのかな。
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