待ち人来たらずは恋のきざし
・これは、待ち人と言えるもの?


あ゙ー、何だかちょっと頭にくる気がするんですけど?

早足で歩きたい気分に足もついて来ないし。

あの男が来る迄はいい感じでいられたのに。
あの男…。私が眠っていると思っていたのね。
言いたい事、勝手に言ってたようだし。
毎日、何も無い?…私の何を知ってるって言うのよ。
知りもしないのに、勝手にアラフォー女の事情を語るんじゃないわよ、フンだ。

フン。…。

…はぁ。…まぁ確かに何も無い。そうよ…確かにそうだけど?
だけどそれの何が悪いのよ…。普通と言えば普通でしょ?

目まぐるしく毎日色々と騒がしくしてる人なんて、そんなに居るもんじゃないでしょ?
…この歳で、男の出入りが激しいって言うのも、それはそれで…どうかしてるって話よ。

大方の人が、特に変化の無い毎日を送っているに違いないのよ…。

…あ、別に『男とか居ないでしょ』って限定で言われた訳じゃなかったんだ。

こんな事を思うのは、私の頭がそういう事を無意識に気にしてるからなんだ…。

はぁ、…ま、いっか。

少し苛つかされたけど、そんな変わった事でも、今までに無かった事があったのだと、これをいい方に取ればいいか…。
変化の一つと思えばいいのよ。
ちょっと渋いマスターにも会えた事だし。…フ。

そういう意味でも行って良かったかなぁ。
一度きりのつもりだったけど…また行っちゃおかな。なんて、ね。
…はぁ、…寒〜。

ん?…あ…そうだ。



ふぅ、寒。…お、何だ?…。
あぁ、お参りか。ここは神社だもんな…。

て…待てよ。
だけど…こんな時間に手を合わせてお参りしてるって事は…。おい、おい…。

お゙…しかも、あの女じゃないか。
ヤバく無いか…願掛け…か?…怖いやつじゃないだろうな。

…呪いか?…まさかな。

まさに、触らぬ神に祟り無し。スルーだ、スルー。
見ちゃいけない…、見なかった事にしよう。


遠目に後ろを通過しようと、道の端に寄って歩いた。

拝み終えたのか、クルッとこっちに振り返った。

「…あ、貴方…さっきの…」

げ…何で気づくかな、もう。

…何で、このタイミングで会うかな…。

そんな思いっ切り怪訝な顔つきまでしなくたって…。

さっきのって言ってるから、はっきり俺だと認識されてしまった訳だよな。

「よう」


彼女は参道にも入らず、道の直ぐ脇に聳え立つ鳥居の前で手を合わせていた。
背筋が綺麗に伸びた立ち姿。
ヨロヨロしながら先に店を出た人物だとは思えないくらいシャンとしていたんだ。
歩く靴音さえ響きそうな程静まり返った一画で、そこは更に凛とした空気に包まれているようだった。

…ま、神社だし。


「夜の参拝っていいのかよ、して大丈夫なものなのか?」

気がついたら話し掛けていた。
何故、今、参拝していたのか気になった。

「確かに…神様は夜はここには居ないそうです。
神様にも自分の時間ってあるらしいんです。
だから今ここに神様は居ません」

「は?」

なんじゃこの女…。いきなりそんな事。
神様が今居るか居ないか、別に聞かされたところで…解りもしない話だ。

変わったところのある女なんだな…。

「ちゃんとした参拝は、朝になってするものです。
朝になったら、また、ここに居てくれていますから。
…今夜は、お礼だけでも、しておきたかったんです」

お礼?お礼参りって事か。
…お礼参り?…駄目だ、お礼参りって聞くと、つい、悪い方の意味を想像してしまう。

まあ、参拝しても害は無いらしいって事か。

神社と言えども、夜となると、ちょっと薄気味悪い感じがするけど、そこは平気なんだな。

「だから、ここでお礼を…。

では…失礼します」


ふ〜ん。夜わざわざ言わなくちゃいけない程のお礼って、なんなんだ…。

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