待ち人来たらずは恋のきざし


最悪…。
なんでまたこの男に会ってしまったんだろう。
あ…私がもたもた歩いていたからかな。

だから…。どのくらい飲んで、いつ店を出たのか知らないけれど、足取りに一切乱れの無いこの男に追いつかれしまったんだ。

はぁ…、こんな夜中に、訳も解らないような話…神様を語って…。
挙げ句、熱心に参拝してる女なんて…。

バーでの事と言い、痛い女だと、絶対思ったに違いない。

私にしてみたら、神社があるんだから…お礼くらいするわよ。

さっき、バーで、これも変化の一つかもって思ってしまったからよ。だから、神様にお礼を言ってたのよ。

神様にはお願い事ばかりをしに来る訳では無いんだから。

本来、神社というのは、願い事というよりも、叶えたい目標を告げ、努力する事を誓い、それを神様に見守って貰っていると私は思っている。
お願いだけして叶うなら、世の中誰一人欠ける事無く思い通りになっている…。

そりゃあ?何か突然の困難にぶつかった時、咄嗟に、神様助けて!と言う事は無いとは決して言わないけど…。


気がついたら、自然の流れというか、いつの間にかずっと並んで歩いていた。

「ちょっと…」

「…何」

そんな…無愛想な返事されても…。でも…。

「…どこまでついて来るおつもりでしょうか?」

「…は?…はあ?…。
この道は貴女の私道ですか?
み〜んなの道ですよね?確か」

はぁ?…そうだけど。でもね…だったら何よ。
みんなの道ならついて来てもいいって言うの?

こっちが聞きたい事は、何故一緒に帰ってるのかって事なのよ。

「…フ。別に、あんたについて行ってる訳じゃ無い。これはたまたまだ。
こっちの方向に俺ん家があるからで、俺としては、当たり前に?普通〜に帰ってるだけなんですが?
で、それが何か犯罪にでもなるんでしょうか?」

…、ん゙ん゙ー、だとしても憎たらしい口の聞き方だ事。
言い方ってモノがあるでしょうに。…ふぅ。

「…そう。…それはごめんなさい。
明らかに…私が自意識過剰な勘違いをしてしまったようなので、ごめんなさい、謝ります」

…あ、…何だよ。意外と素直じゃないか。
…ふ〜ん。

「いや、別に。解ればいいよ」

…こう言って謝ればいいんでしょ?
ここで偉そうに、そんな言い方しなくていいじゃないとか、こっちの言いたいように言い返したら、何だよこの女、とか、思うに決まってるんだから…。
この男なら、また絶対言い返して来るはず。

悪いのは私って解ってる。元々私の勘違いだった訳だし。

大人の対応をしたまでよ。


「なあ、あんた」

何よ…、まだ何か用でも?

「何の神頼みしてたんだ?」

頼んでいた訳じゃ無い。

「ちょっとした…お礼をしてただけです」

言いましたよね?さっきも。

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