待ち人来たらずは恋のきざし
「景衣?大丈夫か?悩ませてしまったな」
「…もう、疲れ過ぎました。さっきは…ごめんなさい、ヒステリックになって。…ごめんなさい。
はぁ…、全部自分が悪い事なのに。
…どうして?」
「ん?」
男はソファーから降りて来て、正面に足を投げ出して座った。
向き合ってしまった。
「暫く来なかったのは、どうして?
どうして、今日来たの?」
「暫く来なかったのは、来れなかったから。
今日来たのは、来れるようになったから」
「もう。…それは、そのまんま…聞かなくても解る事です。
それでは理由が全然解らない。
聞いた意味が無い…」
はぁ、もう、聞くんじゃ無かった、余計疲れが増すじゃない…。
「意味はある。今日来たのは、来れるようになったから…、会いたくて堪らなくなって来たんだ」
あ、…。
「景衣…、会いたかった…」
座って話していたままの状態で抱きしめられた。
…何だか、抱きしめられている事、許してしまっている。
疲れているから抵抗する気にもならないのかも知れない。
「会いたかったけど、来れなかったから仕方なかったんだ」
「…もう、いいです。そんなの訳が解らない…」
だったら、夜中にだって、来れるようになった時間に来ればいいじゃない…。
「連絡、取ろうとしてくれたんだな。部屋にも来てくれた。
景衣こそ、どうしてそこまで?」
「そんなの…生きてるか、心配になったからに決まってるでしょ…」
「それだけか?」
「…それだけです」
「フ。…まあ、いいさ。
間違ったけど、これで俺の携帯の番号も、部屋もはっきり解った訳だ」
「…そうですね」
「いつ架けてくれても、いつ部屋に来てくれても構わないから」
「それは…まあ、…はい」
「一先ず、これで一件落着って事だな。
なあ、景衣〜、腹減ったんだよな〜」
…何よ、もう、本当に。…来た時から腹減ったってばっかり。
こっちはもう疲れたんだから。…フ。
「ご飯、貴方が炊く?」
「ああ、するよ」
「ご飯が炊けたら直ぐ食べられるから…」
「もう何か作ってあるのか?」
「今日って訳じゃないけど…ハンバーグも、クリームコロッケも。
…貴方が来ないから、冷凍してあるのがある…だから直ぐ用意出来るの」
「俺のご飯、ずっと作ってくれてたのか?」
「ずっとって訳じゃないです。…家に帰って来た時に居なかったら、遅くなって来る事は無いから。
無くても良かったんだけど…私の常備用にもなるから、作った時に多めに作っておいたの」
他の物は冷凍しなかったけど、ハンバーグとコロッケは好きだって言ってたから。
「ふ〜ん。そうなのか」
「早くご飯炊かないと、いつまで経っても空いたお腹が埋まらないですよ?……あの」
「ん?」
「今日は泊まるのですか?」
改めて聞くのはちょっとドキドキした。
「泊まる。当たり前だろ。帰る訳が無い」
…晩御飯、お風呂、お泊り、朝ご飯は全部でセットって事?
「あ、私の分、何か作らなくちゃ…」
はぁ、今日は作るつもりじゃ無かったのにな。…フ。
でも作れる気分になった。
「ハンバーグもクリームコロッケも、半分こにしたらいいじゃないか」
「…うん、でも少し野菜とか足さないと。
あと何か作って足しますから」
「そうか。なぁ景衣、風呂、一緒に入らないか?」
え゙?…何よもう。
「何…いきなり来たかと思ったら、何もかも飛び越えて、唐突過ぎる事言って…そんなの駄目に決まってます」
「…駄目か。じゃあ、寝る時、抱きしめるってのは?」
…これは手よ。
お風呂はあまりにもハードルが高過ぎるから、その話の後なら抱きしめるくらい許されるって…。
「…いいですなんて言わないです。でも」
「でも?」
「…眠ってる間に勝手にそうなっていたら、それは知らない…、仕方ないから…知らない事です」
「フ、解った。じゃあ、まずご飯作って食べよう、な?」
「…はい」
これで一件落着か…。…んー。