待ち人来たらずは恋のきざし
「景衣が帰って来た時、俺が居て、嬉しかったって思っただろ」
…。
「…生きてたんだって思った」
「それだけ?」
「…元気だったんだって思った」
「それだけか?」
「私は飯炊き女かって思った」
「はあ?…話、変えるなよ」
「人の顔見ても…腹減ったしか言わないからです」
「会いたかったって言ったけど?」
「それは…そうだけど…」
「俺は景衣に会いたかったし、景衣の作るご飯も食べたかった。
どっちも本当の事だ。
抱きしめたかった」
「え?」
「一所懸命俺と連絡を取ろうとしてくれた事が解って。
凄くあったかい女だと思ったから」
…ちょっと抱きしめたじゃない…。
「だから、そんなの当たり前の事だって言ったでしょ?
…あんまり、連絡が来ないから、電話のね。
だから、もう…貴方の存在は忘れちゃおうと思ったの。
連絡し続ける事にも何だか疲れたから。
貴方の方から、試す事、飽きちゃって…、もう終わりにしたんだって思ったりもした。
だから、心配したって言っても、中途半端だったのよ。
私は、そんなに温かい人間じゃないの。それは貴方の取りようで、そう思っただけ。
私は気まぐれなのよ。
部屋の場所を知っている事を思い出したのだって、散々日が経って、今日だったんだから。
電話より先にマンションに行っていたら、…ウロウロしてたら、もっと会えるのは早かったのかも知れないのよ。
部屋の事、全然思い出さなかったの。
あ…ポスト…。
じゃない、郵便受けを見たら、名前、あったかも知れないじゃない…。
それすら今までピンと来なかったのよ。
全部、何もかも、遣ること成すこと駄目駄目なのよ」
「残念、郵便受けは駄目だったな。見ても部屋番号だけの表示だ。
景衣、もういいよ、自分を卑下した事ばっかり言わなくても。
全然駄目なんかじゃ無い。景衣が優しいってよく解ったよ。
俺に興味があるからだろ?
無かったら何もしない。初めから放っておくもんだよ。
特に俺は、出会ったばっかりの、得体が知れない訳の解らない男なんだからさ。
…さっきからずっと聞いてるんだけど、どうなんだ?景衣」
「…興味は…、出来たかも知れない…」
「よし!」
え?…何よ。認めたら急に何よ…。