待ち人来たらずは恋のきざし

一方的に、しかもメールで連絡をしたけど、課長からは、ゆっくり休めよと連絡が来た。
いいんだ、これで心置きなく休める…。はぁ。
携帯の電源を切った。


「景衣、休めるのか?」

「あ、はい。OK貰いましたから」

「俺、シャワーしてくる」

「あ、はい」

もう、突き詰めて言って来ないんだ。

…あとは私次第だものね。
言うか言わないか、言えるか言えないかは、人に因る、関係性にも因る。
頭に口づけられた。

え?…。

もう、サッとベッドを出て部屋を出て行ってる。

…張りがあって綺麗な身体。背筋が…背骨の窪みがはっきり解る。
…男の人の背中って好きだ。

シャワーを済ませたら帰っちゃうのかな。
枕を抱えた。…はぁ。

大人気ないってどんな意味だったっけ。
…拗ねた大人は、子供より質が悪いのかも知れない。


「景衣、風呂入るぞ」

「え?」

シャワーは?戻って来た。なんで?…はい?

「枕は要らない、置いとけ。風呂、一緒に入るぞ」

「え、えっ?」

ピー。

「溜まった。ほら、行くぞ」

「え゙、貴方、シャワーするって…」

「当たり前だ、入ればシャワーもするだろ」

何それ…。

「景衣もどうせ流すんだろ?一緒に入ったら一石二鳥だ」

「一石二鳥って。貴方が入った後に入りますから」

…嫌よ、恥ずかしいのに。一緒になんて入らない。

…。

「…面倒臭いだろ。スキンシップだと思えばいいんだ」

…スキンシップ?。まさにそれ、文字通りじゃない。…嫌なものは嫌なの。

…。

「素で裸なんて…恥ずかしいから、嫌…」

「それだけ?」

「な、に?」

「運んでやるから」

布団を捲られ、抱き上げられた。
早い。

「…だから、枕は要らない」

「嫌よ。駄目。どけたら見えちゃう、丸見えになる…シてる時とは違うんだから…嫌」

枕を抱いた手に力を入れた。嫌なんだから抵抗するでしょ。

「一緒に浸かるのか?これと」

「…今だけ」

「フ、そんなに隠さなくても…」

「恥ずかしいんだから。…だから、素で裸なんて見られたく無いじゃない」

「解った、解った。
…あのさ、一緒に入ってたら、話し辛い話も、話し易いのかと思っただけだ。
じゃあな」

下ろされた。え?
枕で前を隠しながら、お風呂に戻って行くのを見送っていた。

…。

これはこの男がくれたチャンスじゃない…。
何でも話せよって言う、今がタイミングじゃない…。


枕を置いて、追い掛けて後ろから抱き着いた。

「おっ、何だ…どうした」

「振り返らないで…このまま行って」

…明るくてもこれなら見られない。

「フ。はぁ、俺は…枕の代わりか。このまま歩くなんて…歩き辛いだろ」

「…いいから、行って」

「はい、はい。だけど一緒に入るんだろ?
どうせ中では見えるんだぞ?」

「…後ろから抱っこして」

…そしたら見えない。と言うか、見られないで済む。

「…景衣」

「や、もう。だから振り返らないでって…」

「一つ発見した。景衣の事、解ったぞ。
可愛い事も言うんだなって。…もういいだろ、な?抱いて行くぞ?」

「……なるべく見ないでよね」

「フ、解ってるよ。その代わり、何でも話す事。いいか?」

「はい…なるべく」

「シャワーの時も後ろから抱いててやるからな」

それは余計じゃない?…。
何だか…、交換条件が成り立たない気がするけど。

「洗う時も後ろからか…」

…もう、何もかも、そう思い通りにはさせないんだから。

「…長いよ、景衣。結局はこうやって入るのに。
俺、汗かいてるのに、裸でウロウロして、いい加減、風邪引くところだった」

「…ごめんなさい、面倒臭いんです、私」

「一度は抵抗して見たいんだよな?」

「…そんな風に言わなくても…」

「まあ、簡単じゃない方が俺的には好きだけど。
その方が景衣らしいし」

…、あ。
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