待ち人来たらずは恋のきざし
「そんな言い方されても…。そんな風には思って無いです」
30の男は、女と別れても平気でしょうが、37の女は…、どっぷり好きになったら、男を捨てられないだろう…。
だからと言って、関係性がどうしようもなくなってまで縋る事はしない、…と思う…多分。
「じゃあ、どんな風に?
まだ漠然と、居たらいいなっていうのが続いてる状態?」
「…だって、話がとんとん拍子過ぎて…」
上手い話には裏があるとか、一般的にも言うから…。
この男が信じられないとかでは無い、いい事ばかりだと逆に不安になってしまう…。
「騙してなんか無いよ?
心配で知りたいなら、興信所でも何でも使って気の済むまで俺の事、調べてくれていいから」
「…そんな事まで。しようなんて思わないです。
ただ…話が急だから、ついて行けてないだけです。
私の事だって…、信用出来るのですか?」
「こんな話を、疑いながらすると思ってるか?
そんな事は有り得ないし、景衣の事は疑わないといけない相手だとは思ってもいない。
どんな事も、どんな話も、納得するまでどれだけ煮詰めたとしても、駄目な時は簡単に駄目になるんだ。だろ?
投げやりとか、刹那主義とまでは言わないけど、一緒に居ながら、疑問を感じたらその都度知って解決して行けばいいんじゃないのか?
…俺達はまだ、今からじゃないか。
何もかも急いで完璧に相手の事が知りたいか?
知り尽くして、それ以上、何も目新しく知る事が無くなったら、つまんなくないか?
未知がある方が、毎日少しずつ発見があって俺は楽しいと思うけどな。
謎とまでは言わないけど、知らない事はちょっとあるくらいの方が魅力があっていいんじゃないかな。
今日だって一つ、俺は、景衣が可愛い反応するんだって事知った」
…それは知りたかった事に入るのかな。
「…私、ちょっと変わってるって言われるんです。
もしかして、貴方も変わってるって言われる?」
「いや、俺は、誰彼無く自分の事は話さない。…心は晒さないと言った方がいいか。
だから、実はちょっと変わってるかもって、人は知らないと思う。
隠れ変人だな。いや、違うな。隠し変人だ。
…フ。景衣しか知らないと思うよ?俺の本質…」
「私も、どちらかと言えば変人なの。
物の見方が人と違うから、当然、話す事も、切り取る角度がちょっと違うの」
「変人同士か。どっちか究極だな。合うか、合わないか」
「そうかも知れない。でも、私は合うんじゃないかと思ってる」
「俺も合ってると思う。
フ、…はぁ?て思う話をしても、違和感が無いからな」
「それです。もう、何よーって、思う事があるの。
でも大丈夫。
それはきっと、自分で先読みをしてるんだと思う。
だって、貴方は、何よって、思う事ばっかりなんだもの。
…それでも平気」
「お、どうした?シたくなったのか」
…そうじゃない。
もっと親密になりたいと思った。
急に存在を感じたくて、身体を捻り強引な体勢で男を抱きしめた。
確かに居る身体を身体で感じたくなったから。
「もう。…そこまでじゃないです。
何だかスッとした感じがして、抱き着きたくなっただけです。
…やっぱり貴方に会いたかった」
モゴモゴ言ったけど聞こえちゃったかな。
「…そうか。取り敢えずもう出るか」
頭を撫でられた。
えっ?と思って顔を上げたら、首を傾げてちょっとだけ唇が触れた。
…。何…この見つめ合う間…。
恥ずかしくて顔を伏せた。…男の胸に頬をくっつけていた。
甘えていると取られたかも知れない。
…この男、こんな時はこんなキスがいいって事…ちゃんと知ってる…。
自然と…ときめかせて貰った。
「…ぁ。はい。あ、アイスクリーム、私が買ってあるから大丈夫…。
食べるなら、ストックがあります」
「フ。そっか。
次は買って来るからな。
出たら食べるとするか」