待ち人来たらずは恋のきざし
「俺に何かあったら、すっぱり忘れて、いい男を見つけてくれ。
…なんなら、今のうちから目星をつけておいてくれて構わないから」
…何を言ってるのよ。
「何も知らなくていいなんて言いながら、…話が…深くなり過ぎ。
居なくなったりしないで。…居て…それだけでいいから。
そんな事は無いと思っているから。そんな事は誰だって想定して無い。
だから言わないでください」
はぁ、…今日は駄目。
凄く…切ない。この男が愛おしい。
男の身体に腕を回した。
…甘えた。
「…お願い。…続き、して?」
「…景、衣」
「もう、嫌な話は終わり…。…お願い」
可笑しいのかな…、こんなの。私から求めては引いてしまうかな。
…年上女が、甘えて何言ってるって…冷められて…終わっちゃう…。
「あー、待って。今のは無し。お願い…。
言わなかった事にして?」
…。
男はいまだに微動だにしない。何も言わない。
「…景衣」
「は、い…」
やっと耳元で声がした。
「俺もだけど、景衣もだ」
「ぅん?」
どういう意味…。
「…はぁ、…何だよ、今の返事も…。
さっきのシてっていうのも。
言った事は取り消さない。
だから、無かった事にしては、無い」
「…は、い」
「はぁ、景衣。今日は俺心臓が持たない。
…求めてくれて嬉しい。凄くドキドキした。
言葉が直ぐ出なかった…景衣」
男の唇…。耳を掠めて頬に触れた。
…唇に触れた。見つめられた。…もう、これだけで甘い。
解され続けていた身体は男が触れた途端直ぐ熱くなった。
「…アイスクリーム食べような。…夜中だけど平気か?」
「…平気。だって、…ん。…もう…熱い」
「…ん」
もう一度お風呂に入り、二人でソファーに座り、肩からすっぽりブランケットに包まれていた。
寒いのか寒くないのか…触れている場所は凄く温かい。
テーブルには水のボトルとアイスクリーム。
最初の一口を男が食べた。
二口目、男に差し出したスプーンを戻された。
私の口に運ばれた。
…微かに笑う。喋らない。口に入れた。
…ん。不意に口づけられた。
口の中にはまだ溶け残ったアイスクリームがある。
実質共に…甘い。冷たい塊…口の中は…熱い。
こんな時間、…今しか味わえないのかも知れない。
「…んん、はぁ、もう今日はシしないから…」
「フ。…解ってる。…普通、言わないだろ?」
「普通はね。だって…」
「ん、解ってる。…変わってるからな」
「はい。…だけど、…」
「ん、…解ってる」
口づけはまた次第に深く…長くなった。…止まらない。
「…景、衣」