待ち人来たらずは恋のきざし


「あの、聞きたい事があるの」

「何。あ、ちょっと待った。先に風呂、溜めてくる」

「あ、はい」



「で、何」

「貴方、課長にあった事ある?
というか、課長は貴方を知ってる感じだったのよね」

「…へえ。でも、俺の事、何も知らないだろ」

「そうよね。そうなのよね…でもなんか知ってる感じに取れたんだけど」

…。

「ご飯は?済んでるのですか?」

「ああ、済んでる」

「そう。…うん。…あ、アイスクリーム、あったかな…。
食べたくなっちゃった」

「まだあったんじゃないのか?」

「それいつの話ですか?
貴方、最近来てないから知らないでしょ?」

「そうだった…。景衣が毎日食ってたら無いのか…」

「毎日食べてた」

「俺に買って来いって?」

「ううん、…いい」

段々熱が冷めてきた…。

「あ゙ー?食べたいんじゃないのか?」

「…いい。明日買うからいい」

「はぁ、なんじゃそりゃ。本当にいいのか?」

「いいです」

「風呂から出て、やっぱり食べたかったって言うなよ?
俺はもう買いに行かないからな?」

「解ってます」

…言わない。アイスクリームはもう食べない。

ピー、…。


「風呂、入ろう」

「うん、…先に入って」

「一緒に入らないのか?
直ぐ来る?」

「入らない、一人で入って」

「…ふ〜ん。じゃあ、俺が風呂に入っている間にコンビニにでも行くつもりなのか?」

「ううん、行かない」

…景衣、どうした。

「じゃあ、先にする」

「え」

「もう、持たなくなった」

…。

「…嫌、…今はしたくない…ごめんなさい」

「景衣…じゃあ抱きしめる。ずっとこうしてる」

何を自分に言い聞かせてるんだ?

「…景衣」

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