待ち人来たらずは恋のきざし
「待って、私、リセットの意味がどこまでか解らなくて来ただけなの。
だから駄目よ、こんなの」
「何が?俺はただ泊まって帰ればいいって意味で言ったんだけど。
明日、景衣は休みだろ?
朝、特に慌てる必要も無いし」
…。
「景衣、とにかく中に入れ。寒いだろ」
「はい」
リビングまで後ろをついて行った。
あ、…。
「ちょ、ちょっと?これは駄目でしょ?」
「何が?」
抱きしめたりしたら駄目でしょ?
「リセットはもうしてる。今はリセット後だ。
景衣の身体、こんなに冷えてるし」
そんなの…。
「課長は、…誘惑して来なかったか?」
「え?うん、そんな事は無かった。
話をしただけで真っ直ぐ帰って来たのよ?」
「…何て?やっぱり…好きだって?」
「うん、まあ、その話だった訳だし」
「それでどうなった?」
「…どうにも。話を断ち切るように帰って来たから」
「じゃあ、言われっぱなしなんだ…」
「言われっぱなしでも、無いって、とっくに言ってあるから。
いくら話されても、進みようも無いし」
「課長が諦めて無いだけなんだ」
「うん」
「メールしてたんだから、メールでだって聞けたのに、何で来たんだ?」
「え?…私?」
「そう、景衣の事。リセットの意味って言ったけど、俺ん家に来た衝動の意味。
景衣の冷静さを欠いたモノは何だったんだ?」
「え、そんな事、解らない。考えたりしてないから。
気がついたら部屋を出てた。走ってたの」
「ふ〜ん。じゃあ俺が真っ直ぐ帰って無かったらどうしたんだ?
何も持って来て無いだろ?」
…あ、確かに。鍵しか握って無い。携帯も使ってたのに持って無い。
鍵だって、よく掛けて来たと思う。…掛けたかな。
「待ってたかも知れない」
「ずっと戻らなくても?」
「…多分。…あー、だけど…んー…、帰ったかも知れない。
…解らない。もうって、馬鹿どこに行ったのよとか言いながら、ずっと居たかも」
「フ。景衣らしいな。
そんな景衣だから、別に、強い好きじゃなくていいんじゃないのかな…。
何も考えられないくらい好きも、穏やかに好きも、好きは好き、好きに違いは無いんじゃないかな。
人を思う強さって、人それぞれだろ?だけど、好きは好き」
「濃いとか薄いとか。凄く情熱的とか?」