夜界の王
▽△▽
「大丈夫か?」
さらに半年ほど経った頃、そう声をかけてきたのは村の男、デリックだった。
デリックはいつも笑顔で明るく、村の若い女に始終噂の的になるほどの好青年だった。
彼が声をかけてきた頃、アーシャはもう何に関しても無気力で、ただ言われるがまま家事をこなしている日々だった。
最初にかけられた言葉が「大丈夫か」なのだから、相当暗い顔で道を歩いていたらしい。
「最近外で見かけなくなったな。グレンダさんとはうまくやってるか?」
「…うん…」
デリックの心配そうな顔を見ると、つい、グレンダから受けているの苦痛を相談してしまいたくなった。
でもここで打ち明けたとして、他人に告げ口したとグレンダに知れたらどんな報復がくるか。それに迷惑するのはデリックだ。
(デリックを巻き込みたくない…)
空元気でもアーシャは笑顔を作ろうと顔を上げた。
それと同時に、デリックはアーシャの手を両手で握りしめていた。
アーシャは驚いて握られた手を見る。
「なにか困ってるんだろ? 俺にくらい言ってくれよ、少しは力になれる
「でも、デリック…」
「俺じゃ頼りないか?」
泣きそうな目をしたアーシャに、デリックは微笑んだ。
その笑みが、「大丈夫だから」と自分を励ましてくれているようで、アーシャは目が真っ赤になる。
「……っ」
彼の人懐こい笑顔を見て、アーシャは初めてデリックが心から自分を心配してくれていることを知った。
ぽつりぽつりと、涙を流しながら、この人にならと今までの叔母からの仕打ちを打ち明けた。