夜界の王
それから、デリックとは少しでも時間が空けば2人で会って、よく話をするようになった。
辛くなったとき、デリックはいつもアーシャの話を熱心に聞いてくれ、また励まし笑いかけてくれた。
それがアーシャには本当にありがたくて、心強かった。
いつも明るく楽しげに、今日あった出来事、村の人たちとの笑い話を話して聞かせてくれた。
いつの間にか、笑えなくなっていたアーシャも少しずつ笑顔を取り戻していた。
「やっぱり、アーシャは笑ってるほうが似合ってる」
とびきり嬉しそうな笑顔でデリックがそういうものだから、アーシャは恥ずかしがりつつも、つられてまた笑ってしまう。
デリックといると、叔母にされる仕打ちの辛さが幾分も和らいだ。
そんなデリックをアーシャが好きになるまでに、そう時間はかからなかった。
そしてまたデリックも、辛い環境にあるアーシャを支えていくと常に語りかけてくれた。
彼となら、共に生きていきたい。そうアーシャは強く思うようになっていた。
そして、母イライザが亡くなって1年半が過ぎた。
少し時間をつくっていつものようにデリックと話をしていた。しばらく普通に話していたデリックが急に黙ったので、アーシャは不思議に思って首をかしげた。
「どうしたの、デリック」
彼はアーシャの問いに返事はせず、じっと考えているような表情で動かない。
ようやくデリックが顔を上げた時、その表情はいつになく真面目で、少しだけ緊張したように頬が紅潮していた。
「アーシャ、俺と一緒に暮らさないか?」