夜界の王
「………え?」
いきなり何を言い出すのかと、アーシャはぽかんとデリックを見つめ返す。
「ど、どういうこと? 冗談なの?」
「冗談でもなんでもない、真剣だ! 俺と一緒に暮らそう、アーシャ。そしたらグレンダさんからの嫌がらせもなくなる。ずっと考えてたことなんだ。お前には養いきれないとかなんとか言って、うちの親は反対するかもしれないけど、絶対説得するし、俺はお前を幸せにしたい。朝も夜も、今みたいにちょっとの時間をつくらなくたっていつでも一緒にいられる」
デリックは固まったまま動けないアーシャの両手を握った。いつもと違う、軽はずみな感じは一切なくて、まっすぐに見つめる熱のある視線からアーシャは目が離せなかった。
「結婚しよう。お前のこと、俺がずっと守っていきたいんだ」
アーシャは驚きと困惑と、それ以上に歓喜で、言葉が出ない。彼女自身もデリックとの未来を望んでいたから。そうありたいと強く思っていたからだ。
「…っ叔母さんが…、許してくれるか、わからないわ…」
本当はすぐにうなずいて彼の胸の中に飛び込みたかったが、不安が口をついて出てしまう。
「俺がなんとしても説得するさ。もしどうしてもだめでも、俺は強引にでもアーシャをつれてく」
「そうしたら叔母さんは、今度はデリックを嫌うわよ」
「構わないね。もともと俺はあのばあさんが嫌いなんだ」
肩をすくめて笑うデリックに、アーシャも思わず泣き笑いをもらした。