夜界の王
「ほんとに、私でいいの? こんな綺麗でもないすす汚れた女なのに」
ほとんど照れ隠しだが、それでも気になっていることを確認してしまう。
こんなふうにいつも自分と接してくれるデリックだが、顔良し性格良しと村の女たちから人気がある美男子だ。
村には彼に好意を抱いている娘も少なからずいるだろう。
なのにこんな特別美人でもない自分に彼がプロポーズしたと皆に知れたら、自分はともかく彼も笑い者にされてしまうかもしれない。
果たして自分でつりあうのかと考えてしまうのだ。
アーシャの不安そうな表情に、デリックは呆れたようにため息をついた。
「お前は本当に自分の魅力がわかってないな。こんな美人、誰がすす汚れたなんて思うんだ? 誰が見ても、アーシャは村一番の美人だぜ」
デリックはアーシャの栗色の髪を指で梳き、肩にかかったひと束を後ろにはらう。
アーシャの白い肌を両手で包み込むと、そっと顔を上げさせた。
「お世辞だわ…」
「そう思うなら村の連中に聞いてみりゃいい。村で一番綺麗な女は誰だってな」
デリックはその少しつり目気味の茶色い瞳を向け、自信満々に笑う。
「返事をきかせてくれないか?」
期待のこもった声に、シルバはうなずく代わりにデリックの胸の中にとびついた。デリックもしっかり受け止めて抱きしめ返す。
ああ、やっと、心から愛して信頼できる人が見つかった。
そのときアーシャは久々に、歓喜の涙を流したのだった。