夜界の王
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アーシャとデリックの婚約はすぐに村中に広がった。
村の女たちからの反応がどうなるだろうと心配していたけれど、意外にもみんなが祝福してくれ、お祝いの言葉をかけてくれた。
デリックとの結婚はもちろんグレンダの耳にも入った。2人でグレンダの元へ結婚の報告をしに行った。
そのときのアーシャの心境といったら、口から心臓が飛び出そうなほどだった。
もし勝手にことを進めたことに怒って皿でも投げつけられたらどうしようとか、デリックに殴りかかったらどうしよう、とか。
しかしこちらもまた意外や意外で、投げやりではあるがあっさりうなずいてくれた。
「あたしがあんたの世話が面倒でデリックに押し付けたなんて噂が流れないようにしとくれよ」
最後まで皮肉たっぷりな感じだったが、承諾してくれただけで十分だ。
ついに明日が結婚式。
前夜、この夜が明けて日が昇る時、ついに自分は愛する人と結婚できる。今晩、アーシャは眠れそうになかった。
散々苦しめられてきた相手、グレンダからも解放される。自由になれる、幸せになれる!
アーシャは嬉しくてたまらなかった。こんな日が来ることをずっと願っていたのだ。
イライザが死んでもう2年。グレンダにことごとく利用され続けた日々。苦しくて死んでしまおうかとも思ったが、そんな時にデリックが自分を支えてくれた。
デリックはアーシャにはもったいないくらいに素晴らしい青年だ。今でもこの現実が夢なのではないかと不安にさえなる。
デリックは眠れるのだろうか。自分と同じように緊張と嬉しさで目が冴えている、なんて想像すると嬉しさでむず痒くなってくる。