夜界の王
アーシャは一向に寝付けないまま何十分も布団の中で寝返りをうった。
もうデリックに会いに行って、嬉しさを共有してからではないと眠れないとまで思えてきてしまう。
「……ちょっとだけなら」
決めてからの行動は早かった。
アーシャは布団から這い出て寝着から普段着に素早く着替えた。
明日はこの薄っぺらい貧相な体に真っ白なドレスを纏う。
ドレスといっても、物語の中に出てくるお姫様のような美しい絹のドレスではない。余り物の布をつなぎ合わせて作られたつぎはぎのドレスだ。
アーシャとデリックの結婚を知った村の女たちが、みんなでアーシャのためにこしらえてくれたのだ。
アーシャ自身そんなサプライズがあったなんて知らなくて、今日初めて完成したウェディングドレスを見て思わず泣いてしまったのだ。
思い出すとまた頰が緩む。
こんな調子で果たして明日はしっかり花嫁をこなせるんだろうか。
大泣きして酷い顔でデリックに恥をみせてしまわないだろうか。
だけどアーシャにはこんな悩みも幸せでしかなかった。
デリックに会いたい。
もう寝ているかもしれないけれど、家のそばまで行くことにした。