夜界の王
(最初から、幸せな未来なんてなかったんだ)
デリックは己の快楽と金のために。グレンダは酒のために。
傲慢な2人の欲望に、アーシャは利用されていただけだった。
自分だけがなにも知らずに浮きだって、彼らの目にはさぞ滑稽に映っていたことだろう。
アーシャはデリックを心から愛していた。
だからこそ、裏切られた哀しみと苦しみが深く心臓をえぐる。
自分で選んで掴んだはずだった幸せな未来。
そんなものは幻で、結局他人の手のひらの上で転がされていただけだった。
なんて情けない。
こんなに虚しく、悲しいことがこの世にあるなんて。
何も大きなことは望んでいない。
どんなに小さくてもささやかでもいい。ただ、平凡で幸福な日々がほしかっただけだ。それなのに。
どうして。
「………どうして…、神さま…」