夜界の王
ーーーーふいに、
あたりの木々がざわめいた。
風が右往左往不自然に吹き乱れ、草木がそれに翻弄されて荒ぶる。
どこかで獣が鳴く遠吠えを聞いた気がした。
アーシャは自分の体を冷やしていた冷たい風が、生温かいものに変わった気がして、うっすらと目を開けた。
葉をつけていない枯れた木の枝の奥に、金色の満月が見えた。雲が晴れて森の輪郭がくっきりと鮮明になっている。
凛とした輝きを放つ丸い月が、背後の闇を一層深くしている。
身震いするほどに美しく綺麗な月だった。
ちっぽけな自分の体さえ照らす白銀の光に、アーシャは安心とも不安ともとれない不思議な気持ちに包まれた。
ーーーガサッ。
その時、風が草木を撫ぜる音とは違う妙な音を聞いた。
自分の頭の方から聞こえたそれは、しばらくすると再び、ガサッ、とまた鳴った。
ドクッと心臓が嫌な跳ね方をする。
(まさか獣が…)
動物の息遣いのようなものは聞こえないが、近くになにかが迫っている。そんな気配は感じる。
狼? 熊? それとも…。