夜界の王
枯葉が飛びかい空気がざわざわと音を立てる中で、その男の声だけは驚くほど静かだった。
静かに話しかけているのに、はっきりと耳に残る不思議な声音だ。
何か言わなければと、アーシャは口を開ける。が、またしても息だけが無駄に出るだけで、言葉が音にならなかった。
風がアーシャの髪をさらい、鼻先にひと束はたりと落ちてくる。
それを男の指先がめくり、そのまま顎をくっと持ち上げてアーシャの顔を覗き込んだ。
近くに迫った影のような顔の中で、男の目だけが月の如く光っている。
こちらを射抜くような険しい瞳孔の色は、枯れ木に咲き残った褪せた葉の色に似ていた。
冷たい肌に冷たい瞳。
まるで人間味が感じられない。
この人は一体ーー…。
口を開けたまま喋れずにいると、影になっている男の口元のあたりが動いた。
「喋れないのか? それとも、俺の言葉がわからないのか?」
「……ぅ」
(喋りたくても、喋れない…!)
どうにか意思を伝えようと唇を震えさせていると、男は静かに息をついた。
そして何を思ったのか、硬直したアーシャの肩に手をやり、横抱きに抱き上げた。