夜界の王
「可哀想にね…。ジョセフが死んじまったと思ったら、イライザまで病気で亡くなっちまうとは…」
「アーシャを引き取るのは、グレンダだろ? イライザの姉なんだから」
「大丈夫かしらねぇ…、グレンダとイライザは長く仲違いしているじゃないの。あの人にアーシャを育てることなんて出来るのかね」
「アーシャももう16だ。一人でイライザを養ってこれたあの子なら、きっとうまくやれるよ……」
村から少し離れた森の中で葬儀は行われた。
イライザをおくる葬儀には村中の住人が集った。
今朝彼女が召されていった空は、ぶ厚い雲で灰色に覆われていた。いまにも雨が降り出しそうで、アーシャの心は余計に重くなった。
皆がすすり泣き、手ぬぐいで目元を押さえている中、アーシャは一滴の涙も流さなかった。もう、ベッドの上で動かなくなった母にすがりついて散々泣いたからだ。
誰に話しかけられても真っ白な顔をぴくりとも動かさず、糸が切れた人形のように墓標の前に立ち尽くすだけだった。
(グレンダ叔母さんと一緒に、これから暮らさなくちゃいけない…)
アーシャは真っ白になっている手のひらを握りしめた。
グレンダは、イライザの唯一の肉親で、姉だ。アーシャにとって叔母にあたる。
アーシャはグレンダに対して良い印象はもっていなかった。
ケチで頑固で気性が荒く、おまけに意地悪な女だと村では評判だ。
イライザが病床に臥している間、唯一の身内でありながら一度も見舞いに来たこともなかった。