夜界の王
男の薄紫色の唇が開く。
「服を脱げ」
「………………えっ」
聞き間違いかと思ったが、あろうことか男はアーシャの服に手をかけ、なんの抵抗もなく脱がし出した。
「なななにするの、離してっ!!」
「暴れるな…脱がしにくい」
「ぬ、脱ぐくらい自分できるわ!」
アーシャは真っ赤になって男から距離を取ると、男は心外そうに顔をしかめた。
「なんだ、なぜ逃げる? 風呂の入り方を知りたいんだろう」
「お風呂の入り方は知ってます! 私が聞きたいのは、どうしてお風呂に入れてくれるのかってことで…!」
「凍えた身体を休めるには風呂に入るのが手早い。それだけのことだ」
(こ、答えになってないわ…)
男は憮然として立っている。
アーシャが脱ぐのを待っているようだ。
無言で急かされているように感じ、アーシャはしぶしぶ指示に従うしかない。
「…見られていると……その。お、終わるまで後ろを向いていてもらえない?」
「……………」
男は眉を寄せるが、何も言わずに身体を逸らした。