夜界の王
▽△▽
「………なんだ、その有様は」
読んでいた書物から顔を上げるなり、男は訝しげにアーシャを上から下まで視線を滑らせた。
苦戦を強いられた風呂からようやく出たあと、アーシャは先程出迎えられた老紳士に導かれ、風呂場ほどではないが、それでもやはり広すぎる客室のような部屋に連れてこられていた。
(…恥ずかしい…)
今のアーシャの格好は、貧しさのわかる身なりだった頃とは、また別の意味でひどい格好だった。
髪の毛はバサバサに縮れ、湿気も手伝って四方八方へ飛び跳ねている。
服は、風呂から上がるといつの間にか用意されていた真っ白でふかふかなローブを着ているのだが…アーシャにはローブの着方がいまいちわからなかった。
頭の中の予想だけで着てみたものの、腰のあたりについた紐の使い道がわからない。丈が左右なぜか違ったり、ちぐはぐもいいところだ。
(洗剤はどれでもいいってわけじゃなかったのね…)
適当に選んでも髪につけたものは、おそらく体を洗う専用のものだったのだろう。
そして体を洗ったあの液体は、きっと頭を洗うようのもの。
おかげでいくら流してもなかなかぬめりが取れず、何回もお湯で洗い流したら、すっかり肌もパサパサになってしまった。